ラベリング効果とは|心理学で簡単に解説
ラベリング効果とは|心理学で簡単に解説
ラベリング効果は、人や物に貼られたラベルに沿って自己認識と行動が変わる心理現象で、1963年にハワード・S・ベッカーがアウトサイダーズで体系化したラベリング理論を出発点に広がってきました。
ラベリング効果は、人や物に貼られたラベルに沿って自己認識と行動が変わる心理現象で、1963年にハワード・S・ベッカーが『アウトサイダーズ』で体系化したラベリング理論を出発点に広がってきました。
『明るい子だね』という言葉がその子のふるまいを後押しすることもあれば、『内気だ』という評価が挑戦をためらわせることもあり、評価の言葉が人を動かす仕組みは、良くも悪くも働きます。
筆者も論文や研究書を読み込む中で、『効果』と『理論』が混同されて語られる場面に何度も出会ってきましたが、ここを切り分けると全体像はぐっと見えやすくなります。
さらに、1948年のマートンによる自己成就予言や、1968年のローゼンタールとジェイコブソンの実験までつなげて見ると、ラベルが期待と行動を介して結果を固定化していく流れがはっきり見えてきます。
ラベリング効果とは?まず結論から
ラベリング効果とは、人や物に貼られたラベル(レッテル)に沿って、当人の自己認識と実際の行動が促されていく心理現象です。
研究の文脈では、逸脱や評価の問題を社会がどう名づけるかという視点から整理され、日常の場面では教育や育児、職場の声かけにまで広がってきました。
筆者が研究助手時代に見たのも、参加者の中身が変わったというより、呼び方ひとつで表情や反応が少しずつ変わる場面でした。
だからこそ、まず定義を押さえることが近道になります。
一文でわかるラベリング効果の定義
ラベリング効果は、貼られたラベル通りの自己認識と行動が促進される現象だと捉えるとわかりやすいでしょう。
たとえば「明るい子」と呼ばれた子どもは、その期待に沿う振る舞いを繰り返しやすくなり、逆に「問題児」と見なされた人は、周囲の視線を先回りして避けるような行動に寄りやすくなります。
ラベルは単なる呼称ではなく、本人が自分をどう見るかを少しずつ形づくる手がかりになるのです。
心理学メディアの読者からは、ラベリング効果とピグマリオン効果は同じですか、という質問を繰り返し受けてきました。
似て見えるのは当然で、どちらも「期待や呼び名が人のふるまいを変える」点を持っています。
ただし、ラベリング効果は社会が付けた名前が自己像に入り込む過程をより広く扱い、ピグマリオン効果は期待によって成績や達成が上がる側面を強く示します。
この記事では、この違いも含めて整理していきます。
なぜ「レッテル通り」に人は変わるのか
変化は、レッテル、自己イメージの書き換え、そのイメージに沿った行動という三段で進みます。
周囲から繰り返し同じ名前で呼ばれると、人はその評価をすぐには受け入れなくても、行動の選び方に少しずつ影響を受けます。
すると、選ぶ言葉、避ける場面、挑戦するかどうかが変わり、その積み重ねが周囲の評価をさらに固めてしまいます。
ここに自己成就予言の働きが重なります。
この流れの背景には、1948年にロバート・K・マートンが提唱した自己成就予言があります。
人が状況を真実だと定義すれば、その状況は結果としても真実になる、という考え方です。
逸脱研究ではレマートの一次的逸脱と二次的逸脱の区別も重要で、最初の小さな逸脱そのものより、社会的反応がその後の自己像を固定してしまう点が問題になります。
ラベリング効果は、単なる気分の話ではなく、評価が行動の回路を作る仕組みだと見ると理解しやすいはずです。
効果はプラスにもマイナスにも働く
ラベリング効果の厄介さは、よい方向にも悪い方向にも進むことにあります。
「明るい子」と呼ばれれば、本人は自分を前向きで受け止められる存在だと感じやすくなり、挑戦に踏み出す回数も増えます。
反対に「問題児」という否定ラベルは、失敗を避ける姿勢や反発的な行動を引き出しやすく、本人の可能性を狭めてしまいます。
ラベルの言葉が軽く見えても、影響は軽くありません。
実証面では、1968年にローゼンタールとジェイコブソンがカリフォルニアの小学校で行った「教室のピグマリオン」実験が代表例です。
無作為に選んだ約20%の児童を「知的に伸びる児童」と教師に偽って伝えたところ、その児童は1年後に成績を伸ばし、とくに低学年で効果が大きく出ました。
教師の無自覚な支援や励ましが増えたことが要因とされますが、再現性をめぐる議論も残っています。
この記事では、理論の出自、心理メカニズム、似た効果との違い、古典実験、活用法、ネガティブラベルの害と批判までを一気通貫で見ていきます。
ラベリング理論とラベリング効果の違い
ラベリング理論は、社会学者ハワード・S・ベッカーが1963年の著書『アウトサイダーズ(Outsiders)』で体系化した理論で、ラベリング効果という日常語の出自にある学術的な土台です。
ここで押さえたいのは、理論は逸脱や犯罪をどう生み出すかを考える枠組みであり、効果はその考え方を教育や育児、ビジネスへ広げた応用語だという点でしょう。
似た言葉に見えても、片方は社会学の理論、もう片方は心理学や実践の語彙であるため、最初に切り分けて理解すると混乱しにくくなります。
社会学者ベッカーが提唱した『ラベリング理論』
ベッカーの議論で印象的なのは、逸脱が人の内側に最初から備わった性質ではないと捉え直したところです。
社会的な集団がルールを作り、特定の人にそれを適用し、アウトサイダーというラベルを貼る。
その働きによって、はじめて「逸脱者」が形づくられると考えました。
筆者が初めてこの議論を読んだときも、「悪い人が逸脱する」のではなく、「ラベルが逸脱を作る」という主客の逆転に強い驚きを覚えたものです。
この発想は、行為そのものだけを見ていては見落とすものを照らします。
たとえば同じ行動でも、誰が行い、誰が見て、誰が逸脱と決めるかで意味が変わるからです。
つまりラベリング理論は、個人の性格診断ではなく、社会がどのように境界線を引くかを問う理論だと言えます。
「逸脱は社会が作る」という発想の転換
ベッカーが事例として扱ったのは、マリファナ使用者とダンス・ミュージシャンの2集団でした。
どちらも、行動そのもの以上に、周囲の反応や評価が当人のふるまいを形づくっていく点が重要です。
逸脱者というラベルが付くと、その人は周囲から同じ目で見られやすくなり、自分自身もその役割を引き受けやすくなります。
ラベル付与、自己イメージの更新、行動の変化、評価の固定化が重なり、自己強化的な循環が生まれるわけです。
ここで接続する概念が、1948年にロバート・K・マートンが提唱した自己成就予言です。
状況を真実だと定義すると、その定義に沿って結果が現れるという見方は、ラベリング理論の背後で働く心理メカニズムを理解する手がかりになります。
逸脱の文脈では、社会的反応が一次的な行為を二次的な逸脱へ押し広げる、という整理がしやすくなるでしょう。
理論から日常語『ラベリング効果』への広がり
ラベリング効果は、人や物に貼られたラベルに沿って自己認識と行動が促される心理現象です。
ポジティブにもネガティブにも働き、教育や育児、ビジネスの場では、呼び方ひとつで成果や関係性が変わることがあります。
学生に教える場面でも、理論と効果を同じ言葉として説明すると混乱が起きやすかったため、出自から分けて話すようにしたところ、理解がずっと滑らかになりました。
日常語として広がった「効果」は、ラベリング理論の考え方をわかりやすく使える形にしたものです。
ただし、守備範囲は違います。
理論は逸脱・犯罪研究の枠組みであり、効果はその発想を日常の対人場面へ転用した応用語です。
両者は地続きですが、社会が人をどう位置づけるかを考える理論と、貼られた言葉が行動をどう動かすかを見る実践語として、分けて押さえるのがおすすめです。
ラベリング効果が起きる心理メカニズム
ラベリング効果が心理的に強く働くのは、言葉そのものが魔法のように現実を変えるからではありません。
人がラベルを手がかりに状況を解釈し、自分の振る舞いを調整し、その反応が周囲の評価を固めることで、行動の流れが少しずつ同じ方向へ寄っていくからです。
ここには、自己成就予言、トマスの定理、そして一次的逸脱から二次的逸脱へ進む連鎖が重なっています。
マートンの『自己成就予言』とトマスの定理
中核になるのは、社会学者ロバート・K・マートンが1948年に提唱した『自己成就予言』です。
根拠のない思い込みや噂でも、人々がそれを本当だと受け止めて行動すると、結果としてその状況が現実になってしまう。
ここで働くのは、事実そのものよりも、事実だと信じた後の行動です。
筆者が認知・社会心理学の研究に携わる中でも、参加者への教示の言葉ひとつで課題成績が変わる場面を何度も見てきました。
期待のかけ方がわずかに違うだけで、取り組み方、集中の向き、失敗後の立て直しまで変わるのです。
その土台にあるのがトマスの定理です。
人が状況を真実だと定義すれば、その状況は結果においても真実になる、という考え方ですね。
ラベルは単なる名称ではなく、状況の意味づけを与える「定義」になります。
たとえば「能力が低い」と受け取られれば慎重さが増し、「期待されている」と受け取られれば挑戦の幅が広がる。
定義が行動を方向づけ、行動が結果を作る以上、ラベルは現実の入口になるわけです。
一次的逸脱から二次的逸脱への連鎖
逸脱研究では、レマートの一次的逸脱と二次的逸脱の区別。
一次的逸脱は、本人の中心的な自己像をすぐには変えない小さな逸脱ですが、周囲がそこに強く反応してラベルを貼ると、状況は変わります。
本人は「自分はそう見られている」と理解し、その見られ方に合わせて振る舞い始めるからです。
相談の場で、自分を「あがり症」とラベリングし続けた人が、本番のたびに「どうせまた緊張する」と身構え、かえって緊張を強めていた例を耳にしたことがあります。
呼び名が行動の予告編になってしまうのです。
ここで起こるのが二次的逸脱です。
最初は小さな逸脱だったはずが、社会的反応を受けるうちに、そのラベルに沿った行動が繰り返され、本人にも周囲にも「やはりそうだ」という感触が蓄積していきます。
ラベルが先にあり、行動が後から追随し、再びラベルが強まる。
この反復が、逸脱を固定化してしまいます。
だからこそ、周囲の反応は軽く見えません。
言葉は評価を伝えるだけでなく、次の行動の型まで用意してしまうからです。
ラベルが自己イメージを書き換える循環構造
この流れを一つの循環として見ると、ラベリング効果の自己強化性がはっきりします。
まずラベル付与が起き、次に自己イメージが更新されます。
すると人はそのイメージに沿った行動を選び、周囲はその行動を見て評価を固定化し、固定化された評価がさらに本人の行動を強める。
ラベル付与→自己イメージの更新→ラベルに沿った行動→周囲の評価の固定化→さらなる行動強化、という流れです。
ここで面白いのは、最初のラベルが事実を十分に説明していなくても、途中から本当に見えてくる点にあります。
だからラベルは、診断名のように見えても、実際には行動の設計図として働きます。
実際の現場でも、同じ課題を扱うときに「うまくいく人」と「難しい人」という伝え方の差だけで、参加者の取り組み方が変わるのを観察してきました。
ラベルの効果を理解するうえでは、何が貼られたかより、そのラベルを見た本人と周囲がどう動くかを見ることが肝心です。
そこに、自己成就予言と二次的逸脱が重なる理由があります。
ラベリング効果と似た心理効果の違い
ラベリング効果とピグマリオン効果は、どちらも周囲の見方が人の行動に影響する点で似ていますが、焦点は同じではありません。
ラベリング効果が「レッテルの付与」から自己像や振る舞いが変わる現象なのに対し、ピグマリオン効果は「期待の付与」によって成果が伸びる現象です。
ここを混同すると、似ているのに働き方が違う概念を一まとめにしてしまうため、整理の軸を先に持っておくと理解がずっと楽になります。
ピグマリオン効果・ゴーレム効果との違い
ピグマリオン効果は、他者から寄せられた期待が成績や成果を押し上げる現象で、教師期待効果やローゼンタール効果とも呼ばれます。
用語の質問に答えてきた経験上、最も誤解が多いのはラベリング効果との混同でしたが、見分けるコツは単純で、「レッテル」なのか「期待」なのかを分けて考えることです。
前者は名前や評価の貼り付けが行動の土台を変え、後者は相手に向けた見込みが努力やパフォーマンスを引き出します。
似て見えても、働きかけの中心が違うのです。
ゴーレム効果はその逆で、期待されない、見込みがないと思われることで本当に悪い結果につながる現象です。
負の期待がそのまま自己成就するため、評価者の言葉や態度が相手の挑戦意欲を縮めやすくなります。
ピグマリオン効果と対で押さえると、期待には上向きにも下向きにも作用する両面があるとわかりやすいでしょう。
ラベリング効果との違いまで含めて整理しておくと、現場での会話もぶれにくくなります。
ハロー効果との違い
ハロー効果は、一つの目立つ特徴が全体評価を歪める認知バイアスです。
たとえば学歴や肩書きが目立つと、能力や性格まで良く見えてしまうことがありますが、これは相手の行動を変えるラベリング効果とは作用の向きが異なります。
ハロー効果は評価者側の見え方の偏りであり、ラベリング効果は与えられたラベルが本人の自己認識や行動に入り込む点が核心です。
ここを切り分けると、「見誤ること」と「変えてしまうこと」を別々に扱えます。
この区別は、職場や学校のように初対面の印象が強く残る場面で特に役立ちます。
表面的な特徴だけで全体を判断するとハロー効果に引っ張られやすく、そこに期待や評価が重なるとピグマリオン効果やゴーレム効果まで連鎖しやすいからです。
つまり、ひとつの現象だけを覚えるより、評価の歪みと行動変化を分けて見るほうが実践では強い。
おすすめです。
概念の関係を整理する早見表
研修や講義で5概念を一枚の表にして示したところ、受講者の理解が一気に進みました。
だから本節でも、混同しやすい概念を横並びで確認できる形にしています。
自己成就予言は、期待や評価が行動を通して現実化するという広い上位概念で、その中にピグマリオン効果やゴーレム効果を位置づけると全体像が見えやすくなります。
ハロー効果は評価のバイアス、ラベリング効果はラベルによる行動変化、と役割を分けて読むのが近道です。
| 効果名 | 働く方向 | 主な作用主体 | キーワード | 代表例 |
|---|---|---|---|---|
| ラベリング効果 | レッテルが行動を変える | 周囲からラベルを付けられた本人 | レッテル、自己認識 | 「不良」「優等生」という呼び名で振る舞いが変わる |
| ピグマリオン効果 | 期待が成果を上げる | 期待を向ける側と受ける側 | 期待、向上、教師期待効果、ローゼンタール効果 | 教師の期待で学習成績が伸びる |
| ゴーレム効果 | 期待のなさが成果を下げる | 期待されない本人 | 負の期待、萎縮、自己成就 | 見込みがないと見なされて失敗が増える |
| ハロー効果 | 目立つ特徴が評価を歪める | 評価する側 | 印象、バイアス、肩書き | 学歴が高いと全能力も高く見える |
| 自己成就予言 | 予想が現実化する | 期待する側と受ける側の相互作用 | 予言、行動変化、現実化 | 「うまくいくはず」が行動を変えて本当にうまくいく |
この表で見ると、ラベリング効果はレッテルの付与、ピグマリオン効果は期待の付与、ゴーレム効果は負の期待の自己成就、ハロー効果は印象による評価の歪みとして整理できます。
自己成就予言はそれらを包む上位の考え方であり、日常で概念を使い分けるときの背骨になります。
とくに「期待」と「評価」と「レッテル」を混ぜないことが、理解を崩さないいちばんのポイントです。
しましょう。
ピグマリオン効果を実証した古典実験
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | 教室のピグマリオン(Pygmalion in the Classroom)実験 |
| 実施年 | 1968年 |
| 実施者 | ロバート・ローゼンタール、レノア・ジェイコブソン |
| 場所 | 米カリフォルニアの小学校 |
| 狙い | ラベルと期待が児童の成績に影響するかを検証すること |
ロバート・ローゼンタールとレノア・ジェイコブソンが1968年に米カリフォルニアの小学校で行った『教室のピグマリオン(Pygmalion in the Classroom)』実験は、ラベルや期待が成果を左右しうることを示した古典研究です。
ここで肝になるのは、能力そのものを測ったのではなく、教師が抱く見通しだけを動かした点にあります。
教育現場で「誰が伸びると見なされるか」が、その後の扱い方まで変えてしまう可能性を、具体的な設計で示したのです。
『教室のピグマリオン』実験の設計
全児童に知能検査を行いながら、実際の結果は使わず、約20%の児童を無作為に選んで教師へ「知的に伸びる児童(intellectual bloomers)」だと偽って伝えた。
つまり、成績の差を生む前提条件として能力差を入れず、期待だけを操作したのである。
そこがこの実験の核心で、ラベルが先に貼られると、その後の接し方まで連鎖的に変わるのではないか、という問いを真正面から検証した形だ。
偽の期待が現実の成績を動かした結果
その後の1年後の追跡テストで、無作為に選ばれただけの児童が他の児童より有意に成績を伸ばし、効果は低学年でより大きかった。
偶然選ばれた子どもが伸びたという事実は、教師の期待が学習成果に接続していたことを示す。
しかも低学年ほど影響が大きい点は、子どもが教師の反応をそのまま吸収しやすい時期ほど、ラベルの効き目が強く出ることを示唆している。
教師の無自覚な接し方の変化という機序
ローゼンタールとジェイコブソンは、教師が児童の可能性を信じたことで、無自覚により多くの支援、励まし、肯定的フィードバックを与えていたと結論づけた。
期待は言葉だけでなく、問いかけの回数、待ち時間、評価の細かさといった日常のやり取りに染み込むため、子ども側には「できる子として扱われる経験」が積み重なる。
筆者がこの実験を教材として扱う際も、「無作為に選んだだけ」という設計の妙を学生に強調すると、期待の力に対する納得感が格段に高まった。
もっとも、効果量や再現性をめぐる批判的検討も読んできたので、古典実験をそのまま神話化せず、留保つきで紹介する姿勢が欠かせない。
日常での活用法
肯定的なラベリングは、子どもや相手の「その人らしさ」を言葉にして返すだけで、行動の方向を少しずつ整えていく使い方ができます。
よく笑う、気配りができる、選び方が慎重だといった具体的な観察を拾って伝えると、相手はその言葉を自分の像として受け取りやすくなるからです。
日常で使うときは、抽象的に持ち上げるより、見えた行動を名指しでほめるほうが効きます。
子育て・教育での肯定的ラベリング
子育てや教育の場では、『よく笑う明るい子だね』のような肯定的なラベルを重ねることで、子どもが自分を前向きに捉えやすくなります。
結果だけをほめるより、『さっき最後まで聞けたね』『友だちに順番を譲れたね』のように具体的な行動を拾うほうが、何を続ければよいかがはっきりします。
筆者が教育現場の知見に触れる中でも、『すごいね』より行動を名指ししたほうが、子どもの中で言葉が残りやすいと感じました。
教育現場では、期待を伝える言い方も同じです。
できたことをその場で言葉にすると、本人は「自分はそういう振る舞いができる」と受け取りやすくなり、挑戦への腰が軽くなるでしょう。
ここでのポイントは、人格を決めつけるのではなく、見えた行動にラベルを貼ることです。
親や教師の視線が具体的であるほど、子どもはその役割を無理なく引き受けやすくなります。
職場・マネジメントでの強みの言語化
職場では、相手の強みをそのまま言葉にするラベリングが、配慮や自発性を後押しします。
『気が利く人だね』と伝えられた人は、その印象に沿うように振る舞いを整えやすく、周囲への気配りを増やしやすいのです。
自分自身、苦手意識のある作業を『丁寧にやる人』と言われ続けたことで、その役割を引き受けるうちに本当に丁寧になっていった体験があります。
ラベルは評価で終わらず、次の行動の型になるわけです。
マネジメントで使うなら、抽象的な称賛より、観察できた強みを短く返すのがおすすめです。
たとえば、『さっき後輩に席を譲ったの、気配りが見えたよ』のように具体性を持たせると、本人は何を再現すればよいかをつかみやすくなります。
こうした伝え方は、役割期待を静かに共有する働きもあります。
強みを言語化しておくと、チーム内でその人の持ち味が埋もれにくくなるでしょう。
マーケティング・接客での顧客ラベリング
マーケティングや接客では、ネガティブに見える行為を肯定的な特性へ言い換える工夫が役立ちます。
返品が多い顧客に『商品選びに慎重でこだわりのある方ですね』と返すと、相手は自分の行動を前向きな特性として受け取りやすくなります。
ここで効いているのは、批判を避けるだけではなく、相手の自己認識を少し整える点です。
満足度を保ちつつ対話を続けるための、実用的な一言だと考えるとよいでしょう。
ただし、使い方には3つの原則があります。
人格ではなく行動に貼ること、本人が受け入れられる現実的なラベルにすること、押し付けではなく観察に基づいて伝えることです。
濫用すると操作的に見えてしまうので、相手が実際に示した行動とずれない範囲で使いましょう。
次の注意点につなげるためにも、ラベルは相手を動かす道具ではなく、よい行動を見つけて返す言葉として使ってみてください。
ネガティブラベルの危険性と理論への批判
ネガティブラベルは、貼る側の何気ない一言でも、貼られた側の自己評価を長く傷つけます。
「問題児だ」「どうせ続かない」といった言葉は、その場の評価にとどまらず、本人の中で「自分はそういう人間だ」という見方に変わりやすいからです。
相談の場でも、幼少期に受けた否定的なラベルを大人になっても引きずり、挑戦する前から手を止めてしまう人に何度も出会ってきました。
ネガティブラベルは、非行や問題行動を直接生むというより、期待されない感覚を積み重ねて、結果として挑戦回避や自己成就的な失敗を招きやすいのです。
ネガティブラベルが招く悪循環
ネガティブラベルの怖さは、単に気分を害するだけではない点にあります。
周囲から繰り返し否定的に見られると、本人は「どうせ自分は評価されない」と受け取りやすくなり、行動の選択肢を狭めてしまいます。
そこで起きるのが、ゴーレム効果として語られる負の自己成就です。
期待されない子どもは、期待に応える経験そのものを持ちにくくなり、結果としてますます否定的に見られる。
この循環が、自尊心の低下と問題行動の助長を同時に進めてしまいます。
人格でなく行動に貼るという原則
安全な使い方の基本は、ラベルを性格や人格ではなく、具体的な行動に向けることです。
「あなたはだめだ」ではなく、「今回は約束の時間を守れなかった」と言い換えるだけで、修正の余地が残ります。
人格否定のラベルは、本人のアイデンティティに食い込み、後から剥がしにくい固定化を招きますが、行動への指摘なら、次に何を変えるかを考えやすいからです。
筆者は、この違いが実務では決定的だと感じています。
厳しさが必要な場面でも、相手の存在そのものを傷つけない線引きは守りましょう。
ラベリング理論に向けられた批判と限界
ラベリング理論は、逸脱や不適応を理解するうえで鮮やかな枠組みですが、批判もあります。
とくに、ラベルを貼る側の視点を強く取り上げるあまり、貼られる側の主体性や選択を軽視しがちだという指摘です。
人はラベルを受けても、必ずしもその通りに振る舞うわけではありません。
状況に応じて距離を取ったり、逆に自己定義を更新したりする能動性があるからです。
研究者としてこの理論を見ると、その切れ味に惹かれるほど、説明を一方向に寄せすぎない自戒が必要だと感じます。
ラベリング効果は強力ですが、諸刃の剣として扱う姿勢が欠かせません。
肯定的で、現実的で、行動ベースの言葉を選び、決めつけや操作を避けていきましょう。
自他に貼っているネガティブラベルを一度棚卸ししてみてください。
心理学系大学院修了。認知心理学・社会心理学を専門とし、年間100本以上の論文に目を通しながら最新の研究動向を分かりやすく解説します。
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