アンビバレンスとは|相反する感情を心理学で解説
アンビバレンスとは|相反する感情を心理学で解説
アンビバレンスは、1つの対象に愛と憎しみ、やりたい気持ちとやりたくない気持ちが同時に、しかも同じくらいの強さで存在する心理状態であり、日本語では両価性と訳されます。
アンビバレンスは、1つの対象に愛と憎しみ、やりたい気持ちとやりたくない気持ちが同時に、しかも同じくらいの強さで存在する心理状態であり、日本語では両価性と訳されます。
語源はラテン語の ambi-(両方)と valentia(強さ)にさかのぼり、1910年にスイスの精神科医オイゲン・ブロイラーが提示した言葉でもあります。
好きなのに嫌い、と感じるあの身近な揺れに、実は名前がある。
そう知るだけで、心の中で起きている葛藤は少し整理しやすくなるでしょう。
この用語はもともと臨床の場で生まれ、統合失調症に見られる基本症状の一つとして扱われましたが、いまでは健康な人の日常にも広く使われています。
筆者が年間100本以上の論文に目を通すなかでも、臨床用語が日常語へ意味を広げていく過程はたびたび確認してきましたが、そのたびに出自を正確に押さえることの意味を実感します。
定義と語源からブロイラーの位置づけ、感情・知性・意志の3つの両価性、恋愛や仕事での具体例まで順にたどれば、自分の中にある「近づきたいのに離れたい」という感覚も、変わったものではないと見えてくるはずです。
似た言葉との違いも整理しながら、向き合い方まで見ていきましょう。
アンビバレンスとは|1つの対象に相反する感情を抱く心理
アンビバレンスとは、1つの対象に対して正反対の感情や態度が同時に存在する心理状態で、日本語では「両価性」「両面価値」と訳されます。
愛と憎しみ、近づきたい気持ちと避けたい気持ちが同じ相手に向かって並び立つのが特徴で、単に迷っている状態とは構造が違います。
心理学では古くから扱われてきた概念ですが、日常の恋愛や仕事、家族関係にもそのまま当てはまるため、知っておくと自分の気持ちを整理しやすくなります。
アンビバレンスの意味と読み方・語源
アンビバレンスは「アンビバレンス」と読み、英語の ambivalence に対応する心理学用語です。
語源はラテン語の ambi-(両方・両側)と valentia(強さ・力)で、直訳すると「両方に向かう力」になります。
日本語のカタカナ語はドイツ語の Ambivalenz を直接の元にしており、複数の言語を経て定着した言葉だとわかります。
この語が指しているのは、ただ気持ちが揺れることではありません。
対象に向かう力が片方だけでなく、反対方向にも同時に働き、しかも拮抗しているところに核心があります。
大学の研究助手だった頃、初学者が「アンビバレンスは優柔不断のことですか」と取り違える場面を何度も見ましたが、そのたびに、迷いは選択の途中で起こるのに対し、アンビバレンスは両方の感情が同じ強さで並び立つ点が違うと説明してきました。
心理学を学び始めた学生から「自分は気持ちがコロコロ変わる」と相談されたときも、それは変化というより両価性かもしれないと伝えると、表情がふっと和らいだのを覚えています。
『両価性』という訳語と日本語での使われ方
日本語では、アンビバレンスは「両価性」「両面価値」と訳され、感情面を強く意識すると「両価感情」とも言われます。
訳語に共通するのは、1つの対象を1つの評価で割り切らない点です。
好きだが腹も立つ、助けたいが近づきたくない、といった相反する評価が同時に立ち上がるとき、人は自分の感情を単純な賛成・反対では説明できなくなります。
日本語でこの言葉が役に立つのは、日常会話の曖昧な「複雑な気持ち」を、もう少し正確に言い分けられるからです。
たとえば「アンビバレントな感情」「相手に対してアンビバレントだ」という言い方をすると、気持ちが揺れているだけではなく、同じ相手に対して反対方向の感情が同時にあることを示せます。
ここがポイントです。
認知的不協和のような「矛盾していることへの不快感」とも重なりますが、アンビバレンスはあくまで感情の共存そのものを指す言葉であり、説明したい現象に応じて使い分けると理解がぐっと正確になります。
病気ではなく誰にでもある心の状態
アンビバレンスは病気ではなく、健康な人にも日常的に起こるごく自然な心の動きです。
恋愛で「好きなのに疲れる」、仕事で「辞めたいのに離れがたい」、子育てで「守りたいのに距離もほしい」と感じるのは珍しくありません。
むしろ大切な対象ほど、良い面と負担になる面の両方が見えるため、感情が一方向に固定されにくいのです。
この視点を持つと、自分の感情を必要以上に異常視せずに済みます。
筆者が大学の研究助手として見てきた範囲でも、アンビバレンスを自覚した人ほど、自分を「矛盾した人間」だと責めがちでした。
しかし、両方の感情があるからこそ、その対象を本気で大切にしている場合も多いのです。
気持ちを書き出して、何に惹かれて何に引っかかっているのかを分けてみてください。
対人関係では、その葛藤自体が関係を見直す手がかりになることもあります。
苦しさが強いときは、抱え込まずに整理することをおすすめします。
言葉を生んだブロイラー|統合失調症研究と『4つのA』
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 用語 | アンビバレンス(両価性) |
| 提唱者 | オイゲン・ブロイラー(Eugen Bleuler, 1857-1939) |
| 初出 | 1910年11月26〜27日のスイス精神科医の会合 |
| 主な典拠 | 『早発性痴呆または精神分裂病群』(1911年) |
| 位置づけ | 統合失調症の基本症状「4つのA」の1つ |
| 関連する発想 | splitting(分裂)、Schizophrenie(心の分裂) |
アンビバレンスは、1つの対象に対して愛と憎しみ、快と不快のような正反対の感情が同時に、しかも同程度の強さで存在する心理状態を指す。
オイゲン・ブロイラーが1910年11月26〜27日のスイス精神科医の会合で初めて公に提示し、1911年の著書『早発性痴呆または精神分裂病群』で詳しく論じた概念である。
統合失調症研究の現場から生まれた言葉だが、のちに精神分析を通じて広い心理学概念へ広がっていった。
提唱者オイゲン・ブロイラーと提唱の経緯
アンビバレンスという用語を生んだのは、スイスの精神科医オイゲン・ブロイラー(Eugen Bleuler, 1857-1939)である。
1910年11月26〜27日のスイス精神科医の会合で「アンビバレンツ(Ambivalenz)」として初めて公に提示し、1911年の著書『早発性痴呆または精神分裂病群』で詳述した。
ここで見落としてはいけないのは、ブロイラーが単に新語を作ったのではなく、臨床観察の積み重ねを言葉に変えた点だ。
筆者が原典の研究史を追ったときも、同じ人物が『統合失調症』『自閉』『アンビバレンス』という現代でも使う用語を相次いで生み出した事実に驚かされた。
ブロイラーが問題にしたのは、患者の内面で感情や意志が同じ対象に向かって割れる現象だった。
たとえば、同じ相手に強い愛情と激しい憎しみが同時に立ち上がるような状態で、これは心の機能が splitting(分裂)する様子として理解された。
学術論文を読み込むなかでは、現代の解説記事がこの出自を簡略化し、ブロイラーの観察を薄めてしまうことにも気づいた。
だからこそ、原典に戻って言葉の重みを確かめる作業が欠かせない。
統合失調症の基本症状『4つのA』としての位置づけ
アンビバレンスは、ブロイラーが統合失調症の「基本症状」として挙げた4項目の1つである。
4つのAとは、連合弛緩(Association)、感情障害(Affect)、両価性(Ambivalence)、自閉(Autism)を指す。
頭文字がそろうためこの名で呼ばれるが、重要なのは暗記ではなく、症状の見取り図として機能していた点だ。
ブロイラーは、思考のつながり、感情の動き、対象への態度、内向性という複数の側面から心の変化を捉えようとしたのである。
この4分類は、ブロイラーが『統合失調症(Schizophrenie)』という病名を造語した背景ともつながっている。
語源は「心(phren)」と「分裂(schizo)」で、アンビバレンスはその「心の分裂」という発想と地続きにある。
3分類や4つのAの関係が現代の解説で混同されることがあるが、整理してみると見え方が変わる。
連合弛緩は思考の結びつき、感情障害は感情のまとまり、両価性は同一対象への相反する感情、自閉は外界との関わり方を示し、それぞれ役割が異なるからだ.
| 基本症状 | 対応する英語 | 内容の焦点 |
|---|---|---|
| 連合弛緩 | Association | 思考の連なりがゆるむこと |
| 感情障害 | Affect | 感情の働きが乱れること |
| 両価性 | Ambivalence | 相反する感情が同時に並立すること |
| 自閉 | Autism | 外界より内面へ閉じていくこと |
フロイトによる精神分析への取り込み
この概念は精神分析の創始者フロイトにも取り込まれた。
フロイトは、同じ対象への愛と憎しみの共存や、能動と受動の傾向が同居する状態を説明するためにアンビバレンスを用い、臨床用語を広い心理学概念へと押し広げた。
ここが面白いところで、ブロイラーのもとでは統合失調症の症状記述だった言葉が、人間一般の心の揺れを説明する道具へ変わったのである。
現代では、アンビバレンスは統合失調症の症状という限定を離れ、健康な人の心理を説明する一般的な用語として定着している。
恋愛、仕事、子育ての場面で「近づきたいのに避けたい」という感情が同時に生じるとき、この語はよく当てはまる。
ブロイラーの臨床観察から始まった概念が、日常の葛藤を言い当てる語として生き残った。
その経緯を押さえると、今ふだん使っている「アンビバレンス」が、どこから来て何を指していたのかがはっきり見えてくる。
アンビバレンスの3つの種類|感情・知性・意志
ブロイラーはアンビバレンスを、感情・知性・意志の3つに分けて整理した。
どれも「相反するものが同時に働く」という点は共通しますが、向き合っている対象が少しずつ違います。
感情の揺れとして起こるのか、考えのぶつかり合いなのか、行動の開始と停止が拮抗するのかを分けて見ると、曖昧に感じていた現象がかなり見通しよくなります。
感情的両価性
感情的両価性は、同じ対象に快と不快、愛と憎しみが同時に向かう状態です。
最もよく知られた典型で、恋人を愛しているのに、振り回されて憎いと感じるような場面がこれにあたります。
好きだからこそ傷つき、嫌いになりきれない。
そうした揺れは、人間関係が深いほど起こりやすいと考えると理解しやすいでしょう。
この分類が重要なのは、単なる気分の不安定さではなく、同じ対象に対して真逆の感情が併存している点にあります。
転職を考えたときに、期待と不安が同時に湧いた経験は、まさにこの感情的な両価性の手触りに近いものです。
知性的には前向きでも、感情は別の方向へ引かれる。
そんなずれが、迷いの正体になります。
知性的両価性
知性的両価性は、1つの考えに対して、正反対の考えも同時に正しいように思えてしまう状態です。
「この計画は成功する」と「失敗する」がどちらももっともらしく感じられ、判断が定まらない。
ここで起きているのは感情の衝突ではなく、思考の水準での拮抗です。
情報が増えるほど、かえって結論が出にくくなる場面でもあります。
転職を考えたときに「今が好機だ」と「まだ早い」が両方正しく思えた、という経験はこのタイプのわかりやすい例です。
しかもそのときは、感情的にも期待と不安が同居していました。
知性的両価性と感情的両価性が同時に起こると、頭でも心でも決めきれず、迷いが長引きます。
抽象的な理論に見えて、実際の意思決定ではかなり身近な現象です。
意志的両価性
意志的両価性は、ある行為をしようとする衝動と、やめようとする衝動がぶつかり合い、行動が完了できない状態です。
ブロイラーが挙げた臨床例では、食事をしようとしてスプーンを何十回も口へ運ぶのに、結局食べられない患者が描かれます。
やろうとする力はあるのに、同時に止める力も働くため、動作が途中で止まってしまうのです。
このタイプは、感情や思考よりも行動に近いぶん、外から見てもわかりやすい特徴があります。
学生に教えるときに、ドアの前で入ろうか戻ろうか何度も足が止まる感覚だと説明すると、急に腑に落ちた顔をすることがあります。
頭で理解するだけではなく、身体の動きとして想像できると、抽象的な分類が一気に具体化するからでしょう。
日常の小さなためらいから臨床的な停止まで、幅広くつながる概念です。
現代の用法では、この3分類を厳密に区別しないことも多く、単にアンビバレンスという場合は主に感情的両価性を指します。
理論としては感情・知性・意志を分けて見るほうが整理しやすいですが、実際の会話ではまず感情の揺れとして受け取られやすい。
ここを押さえておくと、専門的な説明と日常語のズレに振り回されずにすみます。
日常で起きるアンビバレンス|恋愛・仕事・親子の例
アンビバレンスは臨床の場だけで見られるものではなく、恋愛、仕事、子育てのような日常の選択にも深く入り込んでいます。
好きなのに腹が立つ、収入は欲しいのに自由は減る、子どもは愛おしいのに一人になりたい。
こうした相反する気持ちが同時にある状態を、身近な場面に当てはめながら見ていきましょう。
恋愛・人間関係でのアンビバレンス
恋愛のアンビバレンスは、相手を深く愛しているのに、振り回されて憎らしく感じるようなときに表れます。
別れたいのに離れられない関係も、愛情と執着が引っ張り合う両価性として理解できます。
気持ちが強いほど、相手の長所と短所が同じくらい鮮明に見えて、心の中で評価が揺れやすくなるのです。
こうした揺れは、特別に不安定な人だけに起こるわけではありません。
筆者が産業心理の現場に触れるなかでも、「この仕事は好きだが続けるのが怖い」と語る人の多さに驚かされましたが、対人関係でも同じで、好きだからこそ期待し、期待するからこそ傷つきやすくなります。
だからこそ、愛情と怒りが同時にあるときに自分を責めすぎない視点が役に立ちます。
ℹ️ Note
反対の感情が同居しているからといって、気持ちが弱いわけではありません。むしろ関係への関与が強いほど、両価性ははっきり現れます。
仕事・進路の選択でのアンビバレンス
仕事や進路の場面では、「収入は欲しいが自由な時間は減る」という形でアンビバレンスが現れます。
転職したい、退職したいと思うのに踏み切れないのも、得たいものと失いたくないものが1つの選択に同居しているからです。
ここでは、損得のどちらか一方だけで決めにくい点が、悩みを長引かせます。
この両価性は、単なる迷いではなく、選択の重さそのものを映しています。
仕事を続ければ生活は安定しやすいが、自分の時間や体力は削られるかもしれない。
逆に離れれば自由は増えても、収入や役割が揺らぐことがあるでしょう。
だからこそ、どちらかを選べばすべてが解決する、と考えずに、何を守りたいのかを整理してみてください。
おすすめです。
接近回避葛藤との関係
アンビバレンスは、心理学でいう接近回避葛藤と重なる構造を持っています。
接近回避葛藤とは、1つの対象に「近づきたい」と「避けたい」が同時に生じる葛藤です。
恋愛で近づきたいのに傷つくのが怖い、仕事で挑戦したいのに失敗が怖い、という形で、日常の多くの迷いに顔を出します。
親子や子育てでも、この構造はよく見られます。
子どもを愛おしく思う気持ちと、自分の時間を奪われる負担感が同時に出てくることがあり、友人が「可愛いのに、一人になりたい」と漏らしたときには、それは罪悪感を背負う話ではなく、自然な両価性だと伝えました。
悩みが深いときほど近づきたい気持ちと避けたい気持ちは強まりやすく、だからこそ「揺れている自分」をそのまま言葉にしてみてください。
気づきが整理の入口になるでしょう。
アンビバレント型の愛着|子どもと大人の特徴
アンビバレント型愛着は、養育者に強く近づきたい気持ちと、同時に反発したい気持ちが入り混じる愛着パターンです。
発達心理学では不安・抵抗型愛着とも呼ばれ、感情のアンビバレンスとつながりながらも、別の文脈で使われる概念として整理されます。
こうした違いを切り分けておくと、同じ語でも何を指しているのかがはっきりします。
アンビバレント型愛着とは
アンビバレント型愛着は、近づきたいのに離れたくもある、という両方の反応が同時に出やすい関係様式です。
愛着理論では、安心の拠り所になるはずの養育者に対して、安心したい気持ちと警戒する気持ちがせめぎ合う状態として理解されます。
初学者が混同しやすいのは、感情の「アンビバレンス」と愛着スタイルの「アンビバレント型」が似た語でありながら、前者は心の状態、後者は対人の結びつき方を指すからでしょう。
筆者も認知・社会心理の文献を横断すると、この同名異義の使い分けで立ち止まる場面が何度もありました。
子どもに見られるサインと背景
この愛着パターンは、エインズワースのストレンジ・シチュエーション法という観察手法で確認される愛着パターンの1つです。
養育者と離れると強く泣き、再会すると抱っこを求めるのに、抱き上げられると体をそらして降りたがる。
求める動きと拒む動きが同時に表れる点に、この型の特徴がよく表れます。
ストレンジ・シチュエーション法の映像を見たとき、母に駆け寄りながら身を反らす子どもの姿に、両価性が行動として現れる瞬間を実感しました。
背景には、養育者の反応が一貫せず、時に応答的で時に無関心という予測不能さがあるとされます。
子どもは「こうすれば受け止めてもらえる」という手がかりをつかみにくく、近づくこと自体が安心につながるとは限りません。
そのため、安心を求める動きが強まるほど、同時に拒む動きも生まれやすくなるのです。
アンビバレント型愛着は、子どもの性格の問題ではなく、関係の中で学習された対応として読むと理解しやすくなります。
大人の人間関係への影響
アンビバレント型愛着は病気のレッテルではなく、対人関係の傾向として捉えるのが基本です。
大人になると、親密な相手に対して過度に不安になったり、見捨てられ不安を強く抱えたりする形で表れることがあります。
相手の反応を確かめたくて連絡や確認が増えるのに、いざ相手が近づくと落ち着かなくなる、そんな揺れが起こりやすいのもこの型の特徴です。
もっとも、これは固定された診断名ではありません。
関わる相手や経験の重ね方によって、対人のパターンは変化しうるからです。
だからこそ、ラベルとして断定するのではなく、「なぜ近づきたいのに不安になるのか」を理解する枠組みとして使うのが有効でしょう。
大人の愛着を考えるときも、子どもの頃に身についた対人の読み方が今の関係にどう影響しているかを見直してみてください。
似た言葉との違い|認知的不協和・無関心・優柔不断
アンビバレンスは、似た言葉と混同されやすい概念です。
とくに認知的不協和、無関心、優柔不断は見た目が近く、話をしている途中で境界がぼやけやすいでしょう。
ここでは、感情の強さと行動の違いに分けて整理し、用語の輪郭をはっきりさせます。
認知的不協和との違い
認知的不協和は、矛盾する認知を抱えたときに生じる不快感そのものです。
たとえば「健康に悪いと知っているのにやめられない」ときの、胸のざわつきや気まずさに近い感覚だと考えるとでしょう。
アンビバレンスはその前段にある状態で、相反する感情が同時に、しかも同程度に強く存在しています。
つまり、原因がアンビバレンスで、結果として認知的不協和が立ち上がる関係です。
この順序を分けて考えると、読者が自分の状態を見誤りにくくなります。
用語解説を書くたびに「認知的不協和とどう違うのか」という質問を最も多く受けてきましたが、両者の関係を一度整理すると理解が一気に進むのを実感してきました。
アンビバレンスは感情の同居、認知的不協和はその矛盾が意識化されたときの不快感。
ここを押さえるだけで、議論の土台がかなり安定します。
無関心・優柔不断との違い
無関心は、どちらの対象にも強い感情が向いていない中立の状態です。
好きでも嫌いでもない、関与が薄い、反応が弱い。
これに対してアンビバレンスは、好きと嫌い、期待と不安のように、正反対の感情がどちらも強く存在します。
感情が薄いのではなく、むしろ強い感情どうしがぶつかっている点で、無関心とは正反対にあります。
優柔不断は、決められないという行動や性格傾向を指します。
ここで見えているのは行動の遅れであって、感情の構造そのものではありません。
アンビバレンスは、その決められなさの背後にある感情の状態であり、優柔不断の原因の1つになりうるものです。
学生が「無関心とアンビバレンスは似ている」と誤解していた場面でも、感情の強さの軸で並べて見せると一瞬で違いが伝わりました。
比較表は、その誤解をほどくのにとても役立ちます。
比較表でまとめる
4つの言葉は、用語・定義・感情の強さ・アンビバレンスとの違い・例の5列で並べると見分けやすくなります。
文章だけで追うより、表で一望したほうが「今の自分はどこにいるのか」を判断しやすいからです。
とくにアンビバレンスは、気持ちが複雑であるほど自己判断が難しくなるので、見える化してしまうのが近道でしょう。
おすすめです。
| 用語 | 定義 | 感情の強さ | アンビバレンスとの違い | 例 |
|---|---|---|---|---|
| アンビバレンス | 相反する2つの感情が同時に同程度に強く存在する状態 | 強い | 基準となる概念 | 好きだが不安も強い |
| 認知的不協和 | 矛盾する認知を抱えたときに生じる不快感そのもの | 不快感として強い | アンビバレンスの後に生じやすい | 信じたいのに矛盾に気づいて苦しい |
| 無関心 | どちらにも強い感情がない中立の状態 | 弱い | 感情の強さが逆 | どちらでもよい |
| 優柔不断 | 決められない行動・性格傾向 | 状況による | 感情ではなく行動の特徴 | 選択肢の前で長く迷う |
この表で4つを一望すると、アンビバレンスは「感情が強すぎて揺れる状態」だと見えてきます。
自分の迷いが、無関心なのか、優柔不断なのか、あるいは認知的不協和まで含んでいるのかを見分けながら読んでみてください。
整理してしまえば、理解はぐっと進みます。
アンビバレンスとの向き合い方|葛藤を抱えるコツ
アンビバレンスは、気持ちがぶれている異常な状態ではなく、ものごとに相反する側面があると見えている証拠でもあります。
まず「両方の気持ちがある」と受け入れるだけで、葛藤は少しほどけやすくなるものです。
二者択一を急がず、揺れを消そうとしない姿勢が出発点になります。
両価性を『異常』と決めつけない
大きな決断ほど、進みたい理由と立ち止まりたい理由が同時に立ち上がります。
転職、引っ越し、人間関係の見直しのように、どちらにも利点と不安がある場面では、葛藤そのものが自然です。
ここで「迷う自分は弱い」と切り捨てると、気持ちを押し込める作業が増え、かえって判断が重くなってしまいます。
ものごとには相反する側面があると受け入れること自体が、葛藤を和らげる第一歩だと言えるでしょう。
研究の現場で動機づけ面接の考え方に触れると、葛藤は敵ではなく、変化の入口にもなると見えてきます。
本人のアンビバレンスを引き出し、無理に消すのではなく整理していく発想は、気持ちの綱引きをやめさせるのではなく、どちらにどんな意味があるのかを見える形にするところに力があります。
葛藤を活かす視点に救われた人を見てきたのも、そのためです。
相反する気持ちを書き出して整理する
整理のコツは、頭の中だけで決着をつけようとしないことです。
葛藤している対象について、「近づきたい理由」と「避けたい理由」を紙に分けて書き出し、並べて眺めてみてください。
書く行為には、感情を外に出して客観化する働きがあります。
言葉にした瞬間、曖昧だった不安や期待に輪郭が出て、何が引っかかっているのかが見えやすくなるのです。
筆者自身も、大きな決断で板挟みになったとき、この方法で整理されました。
両方の気持ちを書き出して並べるだけで、どちらを選んでもしばらく揺れるのは自然だと思えたのです。
肯定と否定が混在しているなら、最後は自分にとってメリットの大きい側を意識的に選ぶほうが、納得感を持ちやすいでしょう。
迷いをゼロにするより、迷いを見える形にして扱う。
これが実践しやすいコツです。
苦痛が強いときは専門家に相談する
ただし、葛藤の整理は日常の範囲で役立つ方法であって、苦痛が強いときまで一人で抱え込むためのものではありません。
日常生活に支障が出るほど苦痛が続いたり、強い不安や抑うつを伴ったりする場合は、自己判断せず専門機関に相談することが望ましいです。
アンビバレンスを「自分で何とかすべき問題」と見なさず、必要な助けにつなげる判断もまた、現実的な向き合い方になります。
動機づけ面接の考え方が示すのは、葛藤は変化を止める壁ではなく、変化に向かう力を引き出す手がかりにもなるということです。
だからこそ、無理に結論を急がず、書き出し、比べ、必要なら相談する。
この流れを持てると、アンビバレンスは扱いにくい迷いから、次の一歩を考えるための材料へと変わっていきます。
この記事は診断や治療を目的としません。
心理学系大学院修了。認知心理学・社会心理学を専門とし、年間100本以上の論文に目を通しながら最新の研究動向を分かりやすく解説します。
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