犯罪心理学とプロファイリングの基礎
犯罪心理学とプロファイリングの基礎
犯罪心理学は、心理学の知見を犯罪や非行の問題に応用する学問であり、その中でプロファイリングは、犯行現場の手がかりから犯人像を確率的に推定する捜査支援の一手法です。刑事ドラマや小説で見るような「犯人をピタリと言い当てる技」に見えますが、実像はずっと地道で、データの質と量を積み重ねていく作業に近いでしょう。
犯罪心理学は、心理学の知見を犯罪や非行の問題に応用する学問であり、その中でプロファイリングは、犯行現場の手がかりから犯人像を確率的に推定する捜査支援の一手法です。
刑事ドラマや小説で見るような「犯人をピタリと言い当てる技」に見えますが、実像はずっと地道で、データの質と量を積み重ねていく作業に近いでしょう。
ここで扱うのは、人の側では「なぜ罪を犯すのか」、環境の側では「なぜその場所・状況で起きるのか」を探る犯罪心理学の全体像で、捜査・裁判・矯正という3つの応用先まで地図のように整理します。
読み終えるころには、FBI方式、リバプール方式、地理的プロファイリングの違いと、その精度が前例と情報量に支えられる推定であることまで、かなり立体的に見えてくるはずです。
犯罪心理学とは何か:心の謎を科学する応用心理学
犯罪心理学は、心理学の知見を犯罪や非行の問題に応用する応用心理学の一分野です。
犯人の動機やパーソナリティだけを追う学問ではなく、「なぜその人が罪を犯したのか」と同時に、「なぜその場所や状況で犯罪が起きたのか」まで扱うところに特徴があります。
人と環境の両面を見なければ、犯行の全体像はつかめません。
犯罪心理学の定義と研究対象
犯罪心理学は、心理学を土台にしながら、犯罪・非行に結びつく行動や判断のしくみを調べる学問です。
学生時代に「プロファイリングを学べる」と期待して講義に入ると、最初は統計と研究法から始まり、少し面食らうことがあります。
けれど、その導入こそが重要でした。
現場で見える派手な推理より先に、データをどう集め、どう比べ、どう解釈するかを押さえなければ、犯行理解は思い込みに流れやすいからです。
研究対象は、個人の内面と環境条件の両方にまたがります。
たとえば、本人の衝動性や学習歴だけでなく、どんな時間帯に、どんな動線の場所で、どんな監視の弱さのもとで犯行が起きたのかまで考えます。
この視点があるからこそ、単なる「悪い人探し」ではなく、再発防止や予防に結びつく知見が生まれるのです。
ニュースで容疑者像が報じられるたびに、その推定が何を根拠にしているのか気になって専門書を確認したくなる、そんな検証の姿勢もこの分野では自然な反応でしょう。
犯罪学・社会学との違い
似た言葉に犯罪学(クリミノロジー)がありますが、両者は重なりつつ焦点が違います。
犯罪学は社会学・法学・統計を含む犯罪全般の学際領域で、犯罪という現象を広く扱います。
それに対して犯罪心理学は、そこで起きる出来事を「個人の心」と「その行動の選択」に寄せて掘り下げる部分集合に近い位置づけです。
整理すると、犯罪学は制度、社会構造、集団、統計の広い地図を描き、犯罪心理学はその地図の上で個人がどう動いたかを読む役割を担います。
どちらが上という話ではありません。
ただ、用語を混同すると、議論の射程がずれてしまいます。
犯罪の増減を社会の側から見るのか、個人の意思決定の側から見るのかで、見える論点はかなり変わるからです。
犯罪心理学を理解することは、隣接領域との棲み分けを知ることでもあります。
ドラマのイメージと実際の学問のギャップ
テレビや小説のプロファイラーは、現場を一目見ただけで犯人像を言い当てます。
けれど、現実の犯罪心理学はずっと地道です。
20世紀後半に行動科学と統計が捜査現場に導入され、そこから現代のプロファイリングが形づくられました。
FBIが1972年にクワンティコの訓練部門内に行動科学課を設けて事例研究型のアプローチを発展させたのに対し、デイヴィッド・カンターが1980年代に確立したリバプール方式は、多変量解析などの統計を用いる数量研究型でした。
方法は違っても、どちらも「経験則を検証可能な形にする」点でつながっています。
プロファイリングは、この分野の一手法にすぎません。
犯行現場のデータから属性や行動特性、拠点を推測することはできますが、推定はあくまで確率的です。
地理的プロファイリングでは円仮説が使われ、日本の連続放火では約70%の事例に当てはまるとされますが、前例のない犯罪には弱い面もあります。
だからこそ、ドラマのような一撃必殺の推理ではなく、実験・統計・事例の積み重ねを読む姿勢が必要です。
犯罪心理学を学ぶ意義は、センセーショナルな犯人当てではなく、人がどんな条件で逸脱に至るかを理解し、予防や更生に役立つ視点を得ることにあります。
犯罪心理学の歴史:ロンブローゾから科学的捜査支援へ
犯罪心理学は、犯罪や非行の原因を心理学の知見から探り、捜査支援や更生に応用する学問です。
その出発点には、1876年にイタリアの医師チェーザレ・ロンブローゾが『犯罪人論』で示した生来性犯罪者説があります。
犯罪心理学の歴史をたどると、犯罪者の身体的・心理的特徴を生物学的に説明しようとした発想が、のちにどう批判され、どのように捜査心理学へつながったのかが見えてきます。
ロンブローゾと生来性犯罪者説
1876年、チェーザレ・ロンブローゾは『犯罪人論』で、生来性犯罪者説を提唱した。
犯罪は偶然の結果ではなく、犯罪者に特有の身体的・心理的特徴に結びつくという考え方で、当時の科学観としてはきわめて強い説得力を持っていた。
イタリアの犯罪人類学博物館に展示されたロンブローゾの頭蓋骨コレクションの写真を見ると、その時代が「人間を測れば犯罪も説明できる」と信じた生々しさが伝わってくる。
古い学説を単に間違いと切り捨てるのではなく、なぜそう考えられたのかを追うと、学問が次の段階へ進む足取りが見えてくる。
もっとも、この説が残した功績と限界は分けて考える必要がある。
犯罪を道徳や逸脱の問題だけでなく、科学の対象として扱えると示した点は画期的だったが、身体的特徴から犯罪者を見分けられるという主張は後の比較研究で支持されなかった。
現在の研究史では、ロンブローゾは犯罪学の扉を開いた人物として位置づけられる一方、その生物学的決定論は否定されたものとして扱われる。
功罪を並べて読むことが、歴史理解では欠かせない。
生物学的決定論からの脱却
ロンブローゾ以後、犯罪の原因を生まれつきの体質に求める見方はしだいに後景へ退いた。
代わって前面に出たのが、学習、家庭環境、社会関係、心理過程を重ねて犯罪を説明する視点である。
ここで起きたのは、単なる学説の入れ替わりではない。
犯罪を「持って生まれた性質」の表れとして見るのか、それとも「どのような経験と環境の中で形成された行動か」と見るのか、その問いの立て方そのものが変わったのである。
この転換は、現代の犯罪心理学を理解するうえで核心になる。
犯罪者を固定的な類型としてとらえるより、状況や対人関係、認知のゆがみ、学習された行動パターンに目を向けるほうが、再犯予防や捜査支援につながりやすいからだ。
生物学的決定論から心理学的・社会学的アプローチへの移行は、犯罪原因を「人の内側」だけで閉じず、「人が置かれた関係の網目」まで広げた転換だった。
行動科学・統計が導いた現代の捜査心理学
20世紀後半になると、行動科学と統計が捜査の現場に持ち込まれ、犯行現場から犯人像を推定する発想が具体化した。
これは後のプロファイリングへつながる「科学的な犯人像推定」であり、現場に残された手口、動線、選ばれた場所の特徴を手がかりに、犯人の属性や行動傾向を読む試みである。
感覚的な推測ではなく、観察できるデータを積み上げるところに、ここまでの歴史との違いがある。
手法の広がり方にも特徴がある。
FBIは1972年にクワンティコの訓練部門内に行動科学課を設け、犯行現場を秩序型・無秩序型に分ける事例研究型のアプローチを育てた。
対してイギリスのデイヴィッド・カンターは1980年代に多変量解析などの統計を用いるリバプール方式を確立し、捜査心理学として体系化した。
さらに地理的プロファイリングでは、最も離れた2犯行地点を直径とする円の中に拠点があるとする円仮説が基礎になる。
日本の連続放火ではこの仮説が約70%の事例に当てはまるとされるが、精度はデータの質と量に左右される。
前例のない犯罪に弱いという限界も含めて、現代のプロファイリングは確率的な推定として使うのが現実的である。
犯罪心理学の3つの応用領域:捜査・裁判・矯正
犯罪心理学の応用先は、大きく捜査支援、裁判への応用、矯正・更生の3つに分けられます。
プロファイリングはその中でも捜査支援の一部にすぎず、目撃証言の精度や虚偽自白の研究、少年院での処遇判断まで含めて見ると、犯罪心理学が司法全体を支える地図だとわかります。
著者が公認心理師を目指す知人から「警察の科捜研でポリグラフを担当している」と聞いたとき、応用範囲の広さを実感したのもこの構図があったからです。
裁判員裁判の報道で目撃証言の信頼性が争点になった場面を見たときも、記憶研究が現実の司法に直結していると腑に落ちました。
捜査を支援する:プロファイリングとポリグラフ
捜査支援の領域では、犯人像を推定するプロファイリングと、生理反応から記憶や反応の有無を探るポリグラフ(虚偽検出)が並びます。
ここで押さえたいのは、プロファイリングが犯罪心理学のすべてではなく、捜査を助ける技法の一角だという点です。
実際には、現場で集まる断片的な行動や発言をどう読むか、相手の緊張や回避をどう扱うかが問われます。
だからこそ、心理学は「犯人当て」ではなく、捜査の視野を広げるために使われるのです。
ポリグラフの話を知人から聞いたときも印象的でした。
警察の科捜研で担当していると聞くと、犯罪心理学が机上の理論ではなく、現場の判断を支える実務であることが見えてきます。
プロファイリングとポリグラフは役割が違いますが、どちらも「人は何をどのように示すか」を手がかりにする点でつながっています。
捜査支援を理解すると、犯罪心理学が単独の技法ではなく、情報を集めて意味づける学問だとつかみやすくなります。
裁判を支える:目撃証言と虚偽自白の研究
裁判への応用では、目撃証言がどれだけ正確か、そして取調べの圧力で虚偽自白がなぜ生まれるのかが中心になります。
記憶は録画のようにそのまま残るわけではなく、あとから入る情報や質問の仕方で歪みやすい。
だから目撃証言の研究は、証言を軽視するためではなく、どこに誤差が入りうるかを見極めて司法の公正さを守るために重要です。
虚偽自白も同じです。
強い圧力のもとでは、事実と違う内容でも口にしてしまうことがあり、それが冤罪につながります。
裁判員裁判の報道で目撃証言の信頼性が争点になった事例を見たとき、記憶研究が抽象的な実験ではなく、実際の判断を左右する土台だと感じました。
ここで扱うのは、証言者や被疑者を一律に疑う話ではありません。
むしろ、どういう条件で記憶や供述が揺らぐのかを知ることで、裁判の場に必要な慎重さを確保するという発想です。
立ち直りを支える:矯正・更生の心理学
矯正・更生の領域では、法務技官(心理)が少年鑑別所や少年院で面接や心理検査を行い、非行の原因分析と処遇方針づくりに携わります。
ここでは「なぜ起きたか」を探るだけでなく、「どう立ち直りにつなげるか」まで見通す必要があります。
犯罪心理学が出口のない分析に終わらないのは、この領域があるからです。
法務技官(心理)が担う仕事は、単に面接をすることではありません。
少年の行動の背景にある家庭環境や対人関係、認知の偏りを整理し、施設での関わり方を決める材料にします。
少年鑑別所と少年院での心理支援は、処遇の精度を上げるだけでなく、進路として心理職を考える人にとっても具体像を与えてくれます。
現場の心理職は、問題を見つける人であると同時に、再出発の道筋を描く人でもあるのです。
プロファイリングとは:犯行から犯人像を推定する技術
プロファイリングとは、犯行現場に残された物的・行動的なデータから、犯人の属性や行動特性を社会的・心理学的な見地で推測する技術です。
超能力や勘で容疑者を当てる作業ではなく、残された手がかりを積み上げて、年齢層や性別、生活状況、拠点のあり方まで見立てていきます。
連続事件では、次にどこで起きうるかを考える材料にもなり、同一犯かどうかを判断するリンク分析にもつながります。
プロファイリングが推定するもの
犯人の年齢層・性別・生活状況、日常の行動圏、拠点の置き方までを含めて、現場に残った痕跡から絞り込んでいくのが基本です。
連続事件であれば、次に狙われやすい場所や時間帯の見立てにも関わります。
だからこそ、プロファイリングは犯人像の輪郭を描く技術であると同時に、捜査の動きを整理するための実務的な道具でもあります。
学び始めた頃は、「犯人を当てる」技術だと思い込みやすいものです。
だが実際には、候補を絞り、優先順位をつけ、捜査範囲を狭めるための補助線に近い。
ここを取り違えると、結果に過剰な期待を乗せてしまいます。
著者が連続事件の報道で「同一犯の可能性」という表現を見るたび、まず手口とシグネチャーのどちらが根拠なのかを考える癖がついたのは、この限界を知ってからでした。
手口(MO)とシグネチャーの違い
犯人の行動を見るとき、重要なのは「目的達成のための手口(MO)」と「心理的欲求を満たすシグネチャー(署名行動)」を分けて考えることです。
MOは、逃走しやすさや犯行効率に合わせて変わりやすく、経験が積まれれば洗練もされます。
これに対してシグネチャーは、犯人の内面の欲求がにじむ部分で、基本的に変わりにくい。
だから同一犯判定では、表面上似たやり方よりも、繰り返し現れる癖や象徴的な行動のほうが手がかりになります。
この区別が見えてくると、事件報道の読み方も変わります。
同じ手口だから同一犯とは限らず、逆に手口が少し変わっていても、深い部分の行動が重なれば関連が疑われます。
表にすると整理しやすいでしょう。
| 観点 | 手口(MO) | シグネチャー(署名行動) |
|---|---|---|
| 目的 | 犯行を成功させる | 心理的欲求を満たす |
| 変化 | 経験で変わりやすい | 基本的に変わりにくい |
| 同一犯判定での役割 | 補助的 | 重要な手がかり |
同一犯か別人か:犯罪リンク分析
犯罪リンク分析は、複数の事件が同じ人物によるものかを判断する作業です。
現場の痕跡、行動の順序、選ばれる場所や対象の傾向を並べることで、単発事件として切り離すべきか、連続性を疑うべきかを見極めます。
ここで大切なのは、似ている点だけでなく、どこが継続し、どこが変化したかを見ることです。
MOは変わりうるので、表面の一致だけでは弱い。
反対に、シグネチャーの反復は、同一犯を考えるうえで重みを持ちます。
ただし、プロファイリングやリンク分析が出すのは確定判決ではありません。
容疑者を1人に特定する装置ではなく、捜査の優先順位を整え、範囲を絞り込むための補助線です。
だからこそ、結果を誇張せず、どこまでが推測でどこからが確証かを分けて読む姿勢が欠かせません。
現場の断片をどう結ぶか。
その積み重ねが、プロファイリングの本質です。
FBI方式とリバプール方式:臨床か統計か
FBI方式とリバプール方式は、同じプロファイリングでも出発点が異なる。
前者は現場の痕跡から犯人像を組み立てる事例研究型で、後者は蓄積した事件データから行動傾向を統計的に読む数量研究型だ。
直感のFBI、統計のリバプールという対比を意識すると、両者の違いが驚くほど。
FBI方式:事例研究と秩序型・無秩序型
FBI方式の起点は、1972年にFBIがクワンティコの訓練部門内に行動科学課(BSU)を設けたことにある。
連続殺人犯への聞き取りなどを通じて、犯行現場に残る痕跡から犯人像を推定する手法が磨かれていった。
初めて秩序型・無秩序型という分類を知ったとき、散らかり具合や痕跡の残り方から生活ぶりまで推し量る発想の鮮やかさに引き込まれた。
現場は単なる物証の集まりではなく、行為の癖がにじむ手がかりになるのである。
FBI方式では、犯行現場を秩序型と無秩序型に大別する。
秩序型は計画的で証拠が少なく、社会適応が高い傾向を持つ。
無秩序型は衝動的で証拠が残りやすく、社会的に孤立した傾向が目立つ。
こうした二分類は、事件を目で追うだけでなく、犯人がどのような対人関係や生活様式を持つかを読み解く足場になる。
リバプール方式:統計が描く犯人像
対してリバプール方式は、イギリスの心理学者デイヴィッド・カンターが1980年代に確立した。
過去の類似事件のデータに多変量解析などの統計を適用し、犯人の行動傾向を割り出すのが核である。
カンターはこれを捜査心理学(Investigative Psychology)として体系化した。
著作の翻訳を読んで、直感のFBI、統計のリバプールという対比図式が頭に入った瞬間、それまで断片に見えた各事例の読み方が一気につながった。
この方式の強みは、個々の印象に頼らず、複数の事例に共通するパターンを抽出できる点にある。
犯行の順序、場所の選び方、接触の仕方といった行動の連なりを、経験則ではなくデータの側から捉え直すため、再現性の高い整理がしやすい。
捜査心理学という名前が示す通り、狙いは単発の逸話ではなく、事件群の背後にある心理と行動の規則性を読むことにある。
両者の長所と弱点
FBI方式とリバプール方式は対立というより補完関係にある。
前者は現場の文脈を深く読むのが得意で、経験豊富な分析官の洞察が生きる。
ただし主観に依存しやすく、対象も限定されやすい。
後者は統計に支えられた整理ができる反面、蓄積データにない新しいタイプの犯罪には弱い。
どちらか一方だけで十分という話ではなく、現場の読みとデータの読みをどう接続するかが鍵になる。
地理的プロファイリング:『どこに住んでいるか』を読む
地理的プロファイリングは、連続犯の犯行地点という空間情報から、犯人の居住地や拠点、次の犯行地を推定する手法です。
属性や性格を読む従来型のプロファイリングとは切り口が異なり、現場が地図上に残す痕跡そのものを手がかりにします。
学んだとき、犯行地点を一つずつ地図に打っていくと拠点の周辺が浮かび上がる感覚があり、心理学と地理学が交差する面白さが強く残りました。
円仮説:犯行地点から拠点を囲い込む
円仮説は、最も離れた2つの犯行地点を直径とする円の内側に、犯人の拠点があると考える見方です。
たとえば、複数の現場を地図上に置いたとき、いちばん遠い2点を結んで円を描くと、その円の内側が「生活圏の中心になりやすい領域」として見えてきます。
犯行地点が点ではなく面として理解できるので、単発の事件より連続犯の動きに向いているのが特徴です。
この発想の重要性は、現場が離れていても順番に並べるだけでなく、空間の偏りを読むところにあります。
連続放火のニュースを見たときも、土地勘のある近場で動く傾向を円仮説の視点で考えると、単に広域で探すより、どのエリアに生活の拠点が寄るかを想像しやすくなります。
地図に線を引く作業は単純ですが、そこから行動の癖まで読めるのがこの手法の魅力です。
ロスモと地理的プロファイリングの体系化
地理的プロファイリングを体系化した代表的人物としてキム・ロスモが挙げられます。
連続犯の行動パターンを集め、犯人が住んでいる可能性の高いエリアを確率的に導き出す方法へと発展させたことで、経験則に近かった見方が、より検証しやすい枠組みになりました。
拠点を「ここだ」と断定するのではなく、可能性の高い帯や領域として示すところに、実務上の強みがあります。
この発展は、心理学的な推測だけでは見えにくい部分を補います。
行動には習慣が出るため、逃走や移動のしやすさ、土地勘、使い慣れた経路といった要素が重なりやすいからです。
著者としては、こうした説明を読むほど、地理的プロファイリングが「犯人像」ではなく「生活の輪郭」を読む技術なのだと感じました。
関連する考え方としては、従来型の属性プロファイリングとの対比で理解するとでしょう。
日本の事例と精度
日本でも検証が進み、連続放火事件では円仮説が約70%の事例に当てはまるとされます。
数字として見ると、単なる理論ではなく、一定の再現性をもって現場で参照されてきたことがわかります。
特に放火のように、犯行地点が行動圏の中に現れやすい事件では、円で囲う発想が手がかりになりやすいのです。
ただし、犯行地点が遠く離れると円が大きくなりすぎて、絞り込みの力は弱まります。
現場が広域に散るほど、円の内側に含まれる範囲も広がるからです。
だからこそ、この方法は万能ではなく、ほかの情報と組み合わせて使う前提で理解するのが自然でしょう。
地図上の点を眺めるだけでなく、そこから生活圏の中心を読む姿勢が、地理的プロファイリングの要になります。
プロファイリングの限界と日本での実際
プロファイリングは、犯罪者像を推定する技術であっても、ドラマのように百発百中の魔法ではありません。
蓄積されたデータの質と量に精度が左右されるため、前例の乏しい新しいタイプの犯罪には弱さが残ります。
だからこそ、過度に神秘化せず、どこまで使えてどこから先は慎重さが必要かを見極める視点が欠かせないのです。
『よく当たる魔法』ではない理由
研究会で「プロファイリングが見事に当たる例は宝くじ並みに稀だ」と聞いたとき、現場寄りの感覚はむしろこの技術の本質を言い当てていると思いました。
人の行動には一定の傾向がありますが、事件を読む材料が少なければ推定も粗くなります。
蓄積されたデータの質と量に比例して精度が上がる、という地味な現実こそが重要です。
しかも、前例の乏しい新しいタイプの犯罪では、似た事例を手がかりにした比較そのものが難しくなります。
プロファイリングは万能の答えを出す仕組みではなく、捜査の仮説を絞る補助線に近い。
ここを誤解すると、当たらなかったときの落差が大きくなります。
日本の体制:科学警察研究所と専門職
日本でプロファイリング研究の中心を担っているのが、科学警察研究所(NRIPS)の捜査支援研究室です。
ここでは捜査現場の支援と手法開発が進められており、単に理論を並べるのではなく、実務で使える形へ落とし込む役割を持っています。
現場の問いに応える研究体制があるからこそ、プロファイリングは空理空論で終わりません。
現在、プロファイリングが主に運用されているのは殺人・性犯罪・放火などの凶悪事件です。
対象を広げること、推定手法をより精緻にすること、データ収集と分析を効率化することが今後の課題になります。
つまり研究の現在地は、すでに完成した技術を磨く段階というより、使える場面を丁寧に増やしていく段階だと言えるでしょう。
これからの犯罪心理学とプロファイリング
プロファイリングやポリグラフには、公認心理師など心理の専門職が関与します。
犯罪心理学は研究室の中だけで完結する分野ではなく、現実の捜査、司法、矯正を下支えする実務の学問でもあります。
心理学を学ぶ入口として犯罪心理学に関心を持った人が、そこから認知、社会、臨床へと視野を広げていく流れも自然です。
著者自身も、犯罪心理学をきっかけに心理学全体へ関心が広がっていきました。
だからこそ、この分野に触れた読者にも、結果だけを見るのではなく、なぜそう推定できるのかを追いかけてみてほしいと思います。
現場の制約を知ることは、夢を冷ますためではなく、学びを次の一歩につなげるためです。
心理学系大学院修了。認知心理学・社会心理学を専門とし、年間100本以上の論文に目を通しながら最新の研究動向を分かりやすく解説します。
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