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アンダーマイニング効果とは?報酬がやる気を下げる理由

更新: 長谷川 理沙
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アンダーマイニング効果とは?報酬がやる気を下げる理由

アンダーマイニング効果とは、もともと「楽しいから」「やりたいから」と続けていた行動に金銭などの外的報酬を足すと、かえってやる気がしぼむ心理現象である。好きで描いていた絵にご褒美をつけたら、以前ほど描かなくなった——そんな逆説は、内発的動機づけと外発的動機づけのぶつかり方を端的に示している。

アンダーマイニング効果とは、もともと「楽しいから」「やりたいから」と続けていた行動に金銭などの外的報酬を足すと、かえってやる気がしぼむ心理現象である。
好きで描いていた絵にご褒美をつけたら、以前ほど描かなくなった——そんな逆説は、内発的動機づけと外発的動機づけのぶつかり方を端的に示している。
1971年のデシのパズル実験と1973年のレッパーらによる子どものお絵かき実験は、この現象が思いつきではなく、実験で確かめられてきたことを物語る。
年100本以上の論文に目を通す立場から見ても、教育や子育ての現場で「ご褒美が裏目に出た」経験は、認知・社会心理学の理屈にそのままつながります。

アンダーマイニング効果とは|やる気が下がるしくみ

アンダーマイニング効果は、もともと「楽しいからやる」「面白いから続ける」といった内発的動機づけで成り立っていた行動に、金銭や賞品のような外的報酬を重ねると、かえって意欲が下がってしまう現象です。
名前の undermining は英語で「土台を掘り崩す」という意味で、内側から湧いていたやる気の土台が、報酬によって揺らぐイメージだと捉えるとわかりやすいでしょう。
子育て、教育、職場で「ご褒美でやる気を引き出す」と考えたつもりが、逆にやらされ感を強めることがある。
ここが出発点です。

アンダーマイニング効果の定義

アンダーマイニング効果とは、内発的動機づけで行っていた活動に外的報酬を与えた結果、その活動そのものへの意欲が下がる現象を指します。
1971年のエドワード・デシの実験では、ソマキューブという立体パズルに金銭を支払った群が、報酬終了後の自由選択時間で自発的にパズルへ触れる時間を減らしました。
1973年のレッパー・グリーン・ニスベットの追試でも、もともとお絵かきを好む幼稚園児に「よくできました賞」を約束すると、後日の自由遊びでお絵かき時間が約50%減少しています。

この現象が面白いのは、報酬そのものが悪いのではなく、報酬が行動の意味づけを変えてしまう点にあります。
最初は「やりたいから触る」だったのに、途中から「もらえるからやる」に変わると、行動の主役が活動の楽しさから報酬へ移る。
すると報酬がない場面では、あえて続ける理由が薄れてしまいます。
過剰正当化効果とも呼ばれるのは、そのすり替わりが起きるからです。

内発的動機づけと外発的動機づけの違い

内発的動機づけは、活動そのものの楽しさや興味が原動力になる状態です。
たとえば、時間を忘れて絵を描く、気になる本を自分から読み進める、といった行動がそれに当たります。
外発的動機づけは、報酬・評価・罰など外からの要因で動く状態で、テスト勉強や締め切り前の作業のように、結果のために頑張る行動が典型です。
前者は「楽しいからやる」、後者は「求められるからやる」と言い換えられるでしょう。

見落としやすいのは、外発的動機づけが入り込むと、本人の頭の中で「自分で選んでいる感覚」が薄れやすいことです。
内発的動機づけは有能感と自己決定感が満たされるほど高まり、逆に統制されている感覚が強まると弱まりやすい。
デシとライアンの自己決定理論に含まれる認知的評価理論は、この流れを説明します。
報酬が「能力の情報」ではなく「やれという圧力」として受け取られると、行動はやらされている感じに傾きます。

観点内発的動機づけ外発的動機づけ
原動力楽しさ・興味報酬・評価・罰
感覚自分からやるやらされている
趣味の絵テストのための勉強

「好きだから」が「報酬のため」に変わる瞬間

アンダーマイニング効果の転換点は、「好きだからやる」が「報酬のためにやる」へすり替わる瞬間にあります。
筆者が研究助手時代に見た例では、もともと読書好きだった子に「1冊ごとにシール」を導入したところ、シール集めが目的化して、本選びが雑になっていきました。
読書という活動の中身より、外から付いた見返りが前面に出たわけです。
こうした変化は、意欲がゼロになるというより、向かう先がずれると理解すると近いでしょう。

似た話を社会人の知人から聞いたこともあります。
好きで続けていた副業ブログに広告収入がつき始めた途端、書くこと自体が楽しめなくなり、更新のたびに数字を気にするようになったというのです。
報酬が入ると、行動の評価軸が「面白いか」から「稼げるか」に変わりやすい。
だからこそ、子育てや教育、職場でご褒美を使うときは、その施策が意欲の土台を支えるのか、掘り崩すのかを見極めましょう。
次の実験パートでは、この転換がどの条件で起きやすいのかを見ていきます。

デシの実験|パズルと報酬で確かめた1971年の研究

項目 内容
名称 デシの実験
成立時期 1971年
主要人物 エドワード・デシ(Edward L. Deci)
典拠 学生を対象にしたソマキューブ実験
測定の焦点 自由選択時間(フリーチョイス)における自発的なパズル接触時間

1971年に心理学者エドワード・デシが行ったこの実験は、外的報酬が内発的動機づけを掘り崩す現象を、最初に体系的に示した古典として位置づけられる。
学生にソマキューブという立体パズルを解かせ、報酬の有無を段階的に変えながら、やる気の変化を目に見える形で追えるように設計されていた。
学生実験でフリーチョイス法を追試すると、退室後にこっそり観察される行動が動機の本音を映す巧妙さに驚かされる。

心理学者エドワード・デシによる実験

エドワード・L. Deciは、もともと興味や楽しさで続けていた行動に金銭報酬を足すと、かえってやる気が下がるのかを確かめた。
ここで扱われたのは、単なる気分の上下ではなく、内側から湧く動機が外的報酬で土台から弱まるかどうかである。
のちにアンダーマイニング効果と呼ばれる考え方の出発点として、この実験はきわめて重要な位置を占める。

ソマキューブを使った3セッションの手続き

実験では学生を対象に、ソマキューブという立体パズルを使った。
手続きは3セッション構成で、第1セッションは両群とも報酬なし、第2セッションでは一方の群だけ正解ごとに金銭、つまり1ドル/正解を支払い、第3セッションでは両群とも無報酬に戻す。
こうして報酬の有無があるときと消えたあとを並べ、前後比較で自発性の変化を見られるようにしたのである。

セッション報酬群無報酬群ねらい
第1セッション無報酬無報酬出発点をそろえる
第2セッション1ドル/正解無報酬報酬の影響を入れる
第3セッション無報酬に戻す無報酬報酬終了後の変化をみる

肝になるのは自由選択時間(フリーチョイス)という測定法だ。
実験者が口実をつけて退室し、被験者がパズルでも雑誌でも自由にできる状況を作ることで、何を選ぶかを観察する。
誰かに命じられた時間ではなく、自分からパズルに触れた時間こそが内発的動機づけの指標になる。
筆者がこの方法を見て印象に残ったのも、観察されているのに「自由な場面」にこそ本音が出る点だった。

報酬群でやる気が下がった結果

結果は明快だった。
報酬を受けた群は自由時間にパズルから離れて雑誌を読むなど、自発的に取り組む時間が減ったのに対し、無報酬群はパズルを続ける傾向を示した。
報酬があるあいだは行動量が増えて見えても、報酬がなくなったあとに自発性が落ちるなら、動機づけの土台が弱まったと考えるほうが自然だろう。
読者にとって押さえるべきなのは、差が出るのは報酬を与えている最中ではなく、報酬がなくなった後だという点です。

子どもでも起きる|レッパーらのお絵かき実験(1973年)

1973年、レッパー、グリーン、ニスベットが幼稚園児を対象に行った実験は、学生やパズルの場面だけではなく、子どもとお絵かきという別の対象でも同じ現象が起きることを示した研究です。
しかも、最初からお絵かきを好んでいた子どもだけを選んでいたため、「もともと好き」な活動ほど、報酬の出し方しだいで興味が揺らぎやすいことまで見えてきます。
ここでは、金銭ではなく「よくできました賞」という賞状型の報酬でも、行動の質が変わってしまう点が核心になります。

お絵かき好きの園児を対象にした実験

レッパー、グリーン、ニスベットの1973年の実験でまず目を引くのは、対象が幼稚園児だったことです。
しかも事前観察でもともとお絵かきを好んでいた子どもだけを選んでいるので、「好きな活動に報酬を足すとどうなるか」をかなり純粋に確かめられます。
学生のパズル課題で見えた現象が、子どもの自発的なお絵かきでも起きると分かると、報酬が動機づけを弱める問題は一部の課題に限られないと受け取れるでしょう。

この設計は、後に出てくる限界の議論にもつながります。
最初から好きではない活動に同じ効果を期待しにくいからこそ、「好きなこと」に対して外から報酬を結びつけることの扱い方が問われるのです。
保育の現場で、シール制を導入したクラスの子が「シールもらえないなら描かない」と言った場面を思い出すと、この研究は机上の話ではなくなります。
描く行為そのものより、報酬の有無が前に出る瞬間を、実験が先に言い当てていたからです。

賞状でも興味が約50%下がった結果

報酬は金銭ではなく、「よくできました賞(Good Player Award)」という金色シールとリボン付きの賞状でした。
物質的な価値が高いわけではないのに効果が出た点が重要で、行動を変えるのに必要なのは高額報酬ではなく、期待を生む合図だと分かります。
現場でありがちな「ご褒美シール」も、見た目が軽いから安全とは言い切れません。
象徴的な賞状でさえ、子どもの興味の向きを変えてしまうのです。

結果ははっきりしています。
事前に報酬を約束された群は、後日の自由遊び時間でのお絵かき時間が、無報酬群に比べて約50%減少しました。
半減という数字は、単なる気分の揺れではなく、好きな活動への自発性が大きく削られたことを示します。
報酬が「やる理由」になると、子どもは描くこと自体より、もらえることのほうを学びやすいのだと思えてきます。

予期しない報酬では下がらなかった点

もっとも、報酬を事前に知らされず、あとから与えられた群ではお絵かきへの興味が低下しませんでした。
ここで分かれるのは、報酬そのものの有無ではなく、「前もって予期していたかどうか」です。
先に約束されると、子どもは行動を報酬と結びつけて捉えやすくなり、あとから渡されるだけなら、自分から描く気持ちは残りやすいのだと理解できます。

この分岐があるからこそ、この現象は過剰正当化(overjustification)効果と呼ばれます。
もともとの楽しさで続いていた活動に、外的な理由が上書きされると、内側からの動機が説明しにくくなるからです。
賞状ひとつで興味の火が弱まるなら、教室での「ご褒美」の置き方はもっと慎重に考えましょう。
筆者が論文を読み込む中で、象徴的な報酬ですら効いてしまう事実は、現場のシール運用への小さくない警鐘だと感じました。

なぜ報酬でやる気が下がる?認知的評価理論で読み解く

認知的評価理論は、デシとライアンの自己決定理論の中核をなす下位理論で、報酬や評価を「どう受け取るか」でやる気の向きが変わると考えます。
内発的動機づけは、有能感と自己決定感という2つの心理的欲求が満たされるほど高まりやすい。
だからこそ、同じ報酬でも、渡し方次第で励ましにも圧力にもなるのです。

認知的評価理論と2つの心理的欲求

認知的評価理論では、報酬そのものよりも、それが人に何を伝えるかが重視されます。
筆者が研究で何度も見てきたのは、同じ金額の報酬でも、渡し方の言葉ひとつで受け手の感じ方が変わる場面でした。
単なるごほうびとして受け取られると、行動の意味づけは外側に寄りやすくなります。
逆に「できている」というメッセージとして受け取られれば、内発的動機づけは保たれやすくなるのです。

この理論を支える軸が、有能感と自己決定感です。
有能感は「自分はできる」という感覚で、自己決定感は「自分で選んでやっている」という感覚です。
認知的評価理論は、この2つが満たされると、人は自発的に取り組みやすくなると説明します。
学生に教えるときも、単に理屈を並べるより「コントロールされた感じ」を実感してもらうと、一気に腑に落ちることが多いのです。

報酬がもつ「統制的側面」と「情報的側面」

報酬には、行動を縛る統制的側面と、能力を伝える情報的側面があります。
ここがポイントです。
同じ報酬でも、前者が強く出れば「これをもらうためにやる」という受け止め方になり、後者が強ければ「自分はうまくできた」という手応えにつながります。
報酬がフィードバックとして働く場合との違いは、まさにこの解釈の差にあります。

統制的側面が目立つと、報酬は行動の自由度を狭めます。
人は自分で選んでいる感覚を失いやすくなり、結果として自己決定感が下がります。
すると、もともと「やりたい」だった行動が「やらされ」へと変わって見えやすい。
アンダーマイニング効果が起きるのは、報酬が動機を支えるのではなく、行動の主導権を外側へ移してしまうからです。

「やらされ感」が自己決定感を奪うしくみ

「やらされ感」は、報酬の存在そのものよりも、報酬の意味づけが強く関わります。
報酬があることで、行動の理由が「楽しさ」から「報酬の回収」へずれると、自己決定感は細っていきます。
人は自分の意思で動いていると感じたいので、その感覚が削られると、同じ行動でも心理的な重さが増すのです。
これが、やる気が下がる前半の話とつながります。

ℹ️ Note

報酬が「コントロールの合図」になると、行動は続いても、内側の意欲は残りにくくなります。

ただし、報酬がいつも悪いわけではありません。
情報的側面が強く、「あなたは上手だ」という能力承認として伝わるなら、有能感を高めるフィードバックになります。
筆者はこの分岐こそが重要だと考えます。
報酬がやる気を下げるのは、報酬だからではなく、行動を縛る合図として受け取られたときなのです。

逆効果を防ぐ|エンハンシング効果と報酬の使い方

エンハンシング効果は、報酬が内発的動機づけを下げるどころか、言語的報酬や肯定的なフィードバックによってやる気を押し上げる現象です。
報酬はすべて悪いわけではなく、何をどう渡すかで結果が変わります。
金銭のような物質的で予期された報酬は興味をそらしやすいのに対し、ほめ言葉は有能感を支え、行動の継続を後押ししやすいのです。

やる気を高めるエンハンシング効果とは

アンダーマイニング効果の対になる現象が、エンハンシング効果です。
言語的報酬などを受けたとき、もともとの「やってみたい」という気持ちがむしろ強まり、行動が続きやすくなる。
ここがポイントなのですが、報酬は一律に動機づけを壊すのではなく、相手がそれをどう受け取るかで働き方が変わります。

筆者も、やる気のある後輩に「○円あげる」と伝えるより、「この工夫が良かった」と具体的に返したほうが、次の仕事への踏み込みが明らかに増えた場面を見てきました。
教育現場でも、シールをやめてから「どこを工夫したか」を言葉で返す運用に切り替えると、子どもの自発的な取り組みが戻った事例があります。
報酬を外からの取引にすると熱が冷めやすいのに対し、承認の言葉は「自分でできた」という感覚を強めやすいのです。

効果的な報酬の与え方4つのポイント

報酬の設計で見るべき軸は、種類、タイミング、伝え方、注目点の4つです。比較すると分かりやすくなります。

下げやすい報酬高めやすい報酬
金銭などの物質的報酬言語的報酬、ほめ言葉
予期された報酬予期しないタイミングの報酬
「やったからもらえる」と伝わる報酬能力承認として伝わる報酬
結果だけを見る報酬努力・工夫・過程に注目する報酬

たとえば、予期せず後から渡すサプライズ報酬は、レッパーらの実験でも興味の低下を招かなかった点とつながります。
先に条件を示しておくと「報酬のためにやる」感覚が強くなりますが、あとから自然に渡すと行動そのものの価値が保たれやすい。
しかも、ほめ言葉を「よくできたね」で終わらせず、「この順番の工夫が効いたね」「最後まで粘ったのが強かったね」と返すと、相手は能力と努力の両方を自分のものとして受け取りやすくなります。

子育て・職場での実践例

子育てなら、毎回ご褒美を約束するより、たまに驚かせるように小さな報酬を渡し、そのたびに「ここを工夫したね」と具体的に褒める流れが使いやすいでしょう。
職場でも同じで、締切を守ったことだけでなく、段取りの組み方や途中の修正まで見て返すと、次の仕事に向かう勢いが落ちにくくなります。
おすすめなのは、結果の評価を1回で終えず、過程に2回言及することです。

まずは、誰かの行動に対して「助かった」だけで終えず、「どの工夫が効いたか」を一言添えてみてください。
さらに、報酬を出すなら事前予告より事後のサプライズにしてみてください。
そうすると、報酬が動機づけを奪う道具ではなく、やる気を支える合図として働きやすくなります。

研究の広がりと注意点|万能ではない報酬の話

デシ・ケストナー・ライアン(1999)の128件の実験を束ねたメタ分析は、報酬が内発的動機づけにどう作用するかを、かなり立体的に見せました。
予期された物質的報酬は内発的動機づけを有意に下げる一方で、言語的報酬は高める傾向が確認されており、報酬なら何でも同じではないことがわかります。
筆者が年100本以上の論文を追っていると、人気の心理効果ほど「万能」に見えやすく、限界条件まで読む姿勢が欠かせないと痛感します。

1999年のメタ分析が示したこと

デシ・ケストナー・ライアン(1999)の重要性は、単発の実験で見えた現象を128件の実験でつなぎ直した点にあります。
報酬は動機づけを押し上げる装置にもなりますが、予期された物質的報酬は「やらされ感」を強め、もともとの楽しさを目減りさせやすい。
逆に、言語的報酬は「うまくできた」「よく取り組んだ」と行為の意味を認めるため、活動そのものへの向き合い方を支えやすいのです。
ここでの違いは、報酬の有無ではなく、報酬が行動の価値をどう伝えるかにあります。

ただし、この領域は最初から解釈が一枚岩だったわけではありません。
1994年のキャメロンとピアスは効果を限定的とする分析を示し、報酬の悪影響をめぐって研究者間で議論が続きました。
大切なのは、対立を「どちらが正しいか」で切り捨てないことです。
複数研究を束ねると、効果の強さだけでなく、どの条件で強まり、どの条件で弱まるのかが見えてきます。
メタ分析の論争を学んだときに、「一つの実験を鵜呑みにせず複数研究を束ねて見る」科学の作法に納得した、という実感はここで生きてきます。

効果が起きやすい条件・起きにくい条件

この効果がはっきり出やすいのは、もともと内発的動機づけが高い場面です。
レッパーらが「お絵かき好きの子」を選んだのは、もともと好きで取り組んでいる活動に外から報酬を足すと、純粋な楽しさがどう変わるかを見たかったからでしょう。
好きなことに対して先に「見返り」が見えると、行為の焦点が結果へずれやすくなり、そのズレが動機づけの低下として表れます。
つまり、報酬が悪さをするのは、行為の内側にすでに強い楽しさがあるときなのです。

反対に、もともと興味の薄い作業や単純作業では、報酬が逆効果になるとは限りません。
むしろ「最初の一歩」を支え、行動のきっかけとして機能することがあります。
だからこそ、「報酬を与えると必ずやる気が下がる」と一般化するのは危険です。
活動が好きかどうか、反復的で単純かどうか、どんな報酬をどのタイミングで渡すかで、意味はかなり変わります。
報酬は常に悪ではなく、設計次第で後押しにもなります。

条件起こりやすい反応読み取りの要点
もともと好きな活動物質的報酬で内発的動機づけが下がりやすい行為の楽しさが報酬に置き換わりやすい
言語的な承認がある場合活動への評価を高めやすいできばえを認める形が働きやすい
興味の薄い単純作業報酬が行動の後押しになることがある入口の摩擦を下げる役目を持つ

「報酬は悪」と決めつけない読み方

実務で役立つのは、報酬を使うかどうかではなく、何を基準に判断するかです。
見るべきは「その活動を相手がもともと好きか」と「どんな報酬をどう渡すか」の2点で、ここを外すと議論が雑になります。
たとえば、好きな活動には成果を奪わない承認を、淡々と進める作業には着手しやすい小さな報酬を組み合わせる、といった整理が考えやすいでしょう。
モチベーションや動機づけを深掘りすると、この見方は応用が利きます。

人気の理論ほど、「これだけで全て説明できる」と受け取られがちです。
けれども、研究を積み上げる本当の価値は、適用範囲を狭く正確に描くところにあります。
報酬の話を読むときは、効果の有無だけでなく、誰に、どの活動で、どんな渡し方をしたのかまで見てみてください。
そこまで追うと、報酬は悪役にも味方にもなる、という現実的な輪郭が見えてきます。
おすすめです。

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長谷川 理沙

心理学系大学院修了。認知心理学・社会心理学を専門とし、年間100本以上の論文に目を通しながら最新の研究動向を分かりやすく解説します。

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