理論・研究

ディドロ効果とは|なぜ一つ買うと全部欲しくなる

更新: 長谷川 理沙
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ディドロ効果とは|なぜ一つ買うと全部欲しくなる

ディドロ効果とは、新しいモノを一つ手に入れたことをきっかけに、それに調和する持ち物を次々と買い替え・買い足ししたくなる消費の連鎖現象です。スマホを新調しただけなのにケース、イヤホン、スタンドまで揃えたくなり、気づけば半月で予定の倍以上を使っていた、そんな経験もこの現象の入口にあります。

ディドロ効果とは、新しいモノを一つ手に入れたことをきっかけに、それに調和する持ち物を次々と買い替え・買い足ししたくなる消費の連鎖現象です。
スマホを新調しただけなのにケース、イヤホン、スタンドまで揃えたくなり、気づけば半月で予定の倍以上を使っていた、そんな経験もこの現象の入口にあります。
名前の由来は18世紀フランスの哲学者ドゥニ・ディドロで、友人から贈られた緋色の高級な部屋着をきっかけに机や椅子まで買い替え、『私は古い部屋着の完全な主人だったが、新しい部屋着の奴隷になった』と後悔した逸話が元になっています。
この記事では、由来と定義を押さえたうえで、なぜ人は揃えたくなるのかを一貫性の原理、認知的不協和、自己概念の3つから整理し、浪費を防ぐための考え方までつかめるようにしていきます。

ディドロ効果とは|一つの購入が連鎖する心理

ディドロ効果とは、新しいモノを一つ手に入れたことをきっかけに、その持ち物に調和する品まで次々と欲しくなる消費現象です。
便利さを足すだけの買い物ではなく、全体の印象をそろえたい気持ちが連鎖を生む点に特徴があります。
新しいリュックを買っただけで靴やジャケットまで気になり、気づけば3点そろえていた、という小さな経験にもこの動きはよく表れます。

ディドロ効果の一文定義

一文で言えば、ディドロ効果は「一つの新しいモノの取得が、それに調和させようとする一連の購入連鎖を引き起こす」現象です。
ここで働いているのは機能の足し算ではなく、持ち物のあいだにある見た目や格の整合性です。
新しい物が一つ入ると、古い物とのちぐはぐさが急に目立ち、全体をそろえ直したくなる。
だからこそ、単発の買い物が気分の問題だけで終わらず、次の購入を呼び込みます。

研究の文献を読んでいると、「機能的に無関係なモノが象徴で結ばれる」という説明に出会うことがあります。
ここがポイントで、私たちはただ便利だから買い足すのではありません。
新しい持ち物が「今の自分らしさ」を更新すると、周囲の物も同じ水準に引き上げたくなるのです。
筆者自身も、その説明に触れた瞬間、買い物の動機が腑に落ちた感覚がありました。

身近に起こる消費の連鎖の例

身近な例として分かりやすいのは、スマホの買い替えです。
端末そのものを新しくすると、ケース、保護フィルム、イヤホン、充電器まで同じ雰囲気でそろえたくなります。
引っ越しで家具を一つ替えたときに、照明やラグ、収納まで見直したくなるのも同じ流れです。
新しいリュックを買っただけで、それに合う靴やジャケットまで気になり始め、結局3点買っていた、という経験も珍しくありません。

こうした連鎖は、単なる浪費の話ではありません。
人は持ち物をばらばらの道具としてだけ見ているのではなく、自分の生活や趣味を映すまとまりとして見ています。
だから一つだけ浮いた品があると、便利不便とは別に、全体の見栄えや気分が落ち着かなくなる。
ちぐはぐさの不快感を避けたい、という感覚が次の購入を後押しします。

きっかけ連鎖しやすいもの連鎖の理由
スマホ本体の買い替えケース、保護フィルム、イヤホン、充電器見た目と統一感を合わせたくなる
部屋家具を1つ変更照明、ラグ、収納、カーテン空間全体の調和を整えたくなる
身だしなみリュックの購入靴、ジャケット、服の色味持ち物同士の格をそろえたくなる

心理学・消費研究での扱われ方

学術用語として最初に定義されたのは1988年で、消費研究者グラント・マクラッケンによるものです。
マクラッケンは1988年の著書『文化と消費』で、個人が自分の消費財の組み合わせに文化的な一貫性を保とうとする力としてこの現象を捉えました。
さらに、調和するモノの集合をディドロ・ユニティ、消費の星座(consumption constellation)と呼び、単品ではなく組み合わせ全体に意味が宿ると考えたのです。

この視点は、行動経済学やマーケティングでも広く参照されます。
家具・衣類・ガジェットのように、機能よりも文化的・象徴的な調和が重視される領域では、とくに分かりやすく働きます。
Apple のエコシステムや IKEA のコーディネート展示が示すように、統一感は「欲しい」を連鎖させる強い引力になります。
次のセクションでは、この連鎖がどの心理から生まれるのかを、さらに整理して見ていきましょう。

名前の由来|哲学者ディドロのガウンの逸話

ディドロ効果の名は、18世紀フランスの哲学者ドゥニ・ディドロ(1713-1784)に由来します。
『百科全書』の編集者として知られる彼は、友人から贈られた緋色(スカーレット)の高級な部屋着をきっかけに、身の回りの品を次々と買い替えていきました。
その逸話は、モノを手に入れた瞬間に統一感を求めて買い足しが連鎖する、人間の欲求の動きを生々しく映しています。
現代のスマホやガジェットでも同じことが起きると考えると、かなり身近な話に見えてきます。

ドゥニ・ディドロとはどんな人物か

ドゥニ・ディドロは、1713年生まれ1784年没のフランスの哲学者であり、啓蒙思想を集大成した『百科全書』の編集者として知られる人物です。
単なる著述家ではなく、知識を整理し、時代の議論を広く社会へ開いた編集者だったところに、この逸話の面白さがあります。
理性や知の体系化を重んじた人物が、生活の中では一つの部屋着に心を動かされてしまう。
その落差があるからこそ、後年まで語り継がれる話になったのでしょう。

ディドロ効果という言葉を思い浮かべるとき、名前だけを覚えるよりも、知の巨人が意外にも日用品の連鎖に巻き込まれた、と捉えるほうが記憶に残ります。
スマホを新調したらケース、イヤホン、充電器までそろえたくなる感覚は、まさにその延長線上にあるものです。
筆者も初めてこの逸話を読んだとき、現代のガジェット沼と本質が変わらないことに驚きました。

緋色の部屋着が招いた買い替えの連鎖

逸話の出典は、ディドロが1769年に執筆したエッセイ『私の古い部屋着を手放したことへの後悔』です。
物語の起点は、友人から贈られた緋色の高級な部屋着でした。
それまでは古びた部屋着と気楽に暮らしていたのに、手元に上質な一着が来た瞬間、部屋全体の見え方が一変するのです。

机は古く、椅子は釣り合わず、本棚も鏡も、床の敷物までもが急にみすぼらしく感じられる。
そこから買い替えが一つずつ始まり、部屋はやがて豪華になりましたが、家計は逼迫しました。
新しい物がほかの物まで引き上げるのではなく、むしろ周囲との不均衡を際立たせる。
この流れが、ディドロ効果の核心です。
引っ越しで家具を一つ替えたら、部屋全体を一新したくなる感覚にもそのまま重なります。

『主人から奴隷へ』というディドロの後悔

ディドロは『私は古い部屋着の完全な主人だったが、新しい部屋着の奴隷になった』と書き残しました。
この一節が強いのは、単に後悔を述べているからではありません。
人は所有物を増やしたつもりでも、実際には「それにふさわしい世界」を維持するために振り回されることがある、と一言で言い切っているからです。

ここで働いているのは、持ち物の機能よりも、全体の調和や自分らしさを優先したくなる心理です。
新しいスマホを買ったあとに周辺機器までそろえたくなり、ひとつだけ浮いた状態を落ち着かなく感じる。
そんな衝動に『主人から奴隷へ』の句を当てはめると、思い当たる節がある人は少なくないでしょう。
筆者自身も衝動買いを振り返るたび、この一文を思い出して反省します。
おすすめです、まずは手持ちの物の関係性を見直してみましょう。

学術用語としての定義|マクラッケンの消費研究

項目 内容
名称 ディドロ効果
命名者 グラント・マクラッケン
概念化 1988年の著書『Culture and Consumption(文化と消費)』
要点 消費財の組み合わせに文化的な一貫性を保とうとする力
関連概念 ディドロ・ユニティ、消費の星座(consumption constellation)

ディドロ効果は、逸話の主役であるディドロの名前を借りつつ、学術用語としてはグラント・マクラッケンが1988年の著書『Culture and Consumption(文化と消費)』で概念化したものです。
ここで中心になるのは、単なる「買い足し」の連鎖ではなく、持ち物どうしの見えない整合性を保とうとする消費者の働きだ。
だからこそ、この概念を押さえると、買い物の判断が機能だけでなく文化的な意味にも左右されることが見えてきます。

1988年マクラッケンによる命名

逸話としての出発点はディドロですが、これを学術用語として整理し、名前を与えたのは文化人類学者・消費研究者のグラント・マクラッケンです。
1988年の著書『Culture and Consumption(文化と消費)』で概念化したことで、個人の買い物の癖が、気分の問題ではなく文化の組み立て方として読めるようになりました。
論文を読んでいてこの整理に出会うと、話はかなり明快になるはずです。

マクラッケンが示したのは、ディドロ効果を『個人が自らの消費財の組み合わせに文化的な一貫性を保とうとする力』として捉える見方でした。
つまり、気に入った一品を手に入れたら終わりではなく、それに合う周辺のモノまで揃えたくなる。
衝動買いの説明で片づけると本質を外します。
実際には、持ち物全体を「その人らしく」見せようとする調和の圧力が働いているのです。

ディドロ・ユニティと消費の星座

マクラッケンは、文化的に調和するモノの集合をディドロ・ユニティ、あるいは消費の星座(consumption constellation)と呼びました。
前者は「まとまりをなす消費の一式」、後者は「互いに関係しながら配置されるモノの群れ」と考えるとわかりやすいでしょう。
筆者は論文を読みながらこの consumption constellation という語に出会い、自分のクローゼットもまさに一つの星座なのだと気づきました。
服が単品で並んでいるのではなく、どれも似た雰囲気を保ちながら全体をつくっていたからです。

この考え方が役立つのは、欲しい物を一つずつ評価するだけでは足りないと教えてくれるからです。
たとえば友人へのプレゼントを選ぶときも、無意識に「この人のユニティに合うか」を見ていることがあります。
高価かどうかより、その人の手持ちや雰囲気と調和するかが気になる。
ディドロ・ユニティは、そうした日常の選択を説明する実用的な道具になっています。

モノを結ぶのは機能ではなく象徴

ユニティを構成するモノ同士は、機能でつながるのではなく、文化的・象徴的に結びついています。
たとえばスーツ、革靴、腕時計は、互いの機能を直接補い合うわけではありません。
それでも三つがそろうと、「ビジネスパーソンらしさ」という意味が立ち上がる。
ここが重要です。
消費の星座では、モノは道具としてではなく、所属や役割を示す記号として並びます。

この視点を持つと、買い足しの理由がかなり見えやすくなるでしょう。
新しいシャツが必要なのではなく、今ある靴や鞄とのあいだにズレを感じるから買い足す、ということが起こるのです。
ディドロ効果は、欲望の暴走というより、意味の整合性を守ろうとする力だと考えると理解しやすい。
日々の買い物を見直すときも、おすすめです。

なぜ揃えたくなるのか|3つの心理メカニズム

一貫性の原理、認知的不協和の解消、自己概念との接続という3つを押さえると、「なぜ揃えたくなるのか」が感覚論ではなく、筋道立って見えてきます。
新しいモノをひとつ足すだけでも、周囲との関係や自分の見え方まで動き出すからです。
買い替えが連鎖しやすいのは、単なる気分ではありません。
人は頭の中でも部屋の中でも、ちぐはぐさをそのままにしておきにくいのです。

一貫性を保ちたいという心理

一貫性の原理とは、人が過去の行動・態度・信念と矛盾しないように振る舞おうとする傾向を指します。
持ち物にもこの働きはそのまま及び、机の上、棚の色、道具の質感まで、どこかで揃っているほうが落ち着くのです。
逆に言えば、ひとつだけ浮いたアイテムは「自分らしさ」と噛み合わない違和感を生みやすいでしょう。
だから、ちぐはぐな状態を見つけると放置しづらくなります。

たとえば新しいノートPCを買ったあと、周辺機器までそろえたくなった経験はないでしょうか。
机の上に古いマウスや黄ばんだケーブルが残っていると、性能の差だけでなく見た目の統一感まで崩れます。
すると、PC単体の満足では終わらず、デスク全体をひとつのまとまりとして整えたくなる。
ここには、道具をただ使うのではなく、選んだ自分の判断まで整合させたいという心理が働いています。

認知的不協和を解消するための買い替え

新しい高級品と古い周囲のモノとのちぐはぐさは、認知的不協和、つまり矛盾が生む不快感を生みます。
認知的不協和理論はレオン・フェスティンガーが1957年に提唱した社会心理学の代表的理論で、この「気持ち悪さ」をどう減らすかを説明する枠組みです。
高い買い物をしたのに周囲が安っぽく見えると、満足より先に違和感が立ち上がる。
そこで人は、周辺のアイテムも更新して不協和を弱めようとします。

この連鎖は、実際の部屋でも起きやすいものです。
新しいノートPCを置いた瞬間、古いモニター台や色の合わない周辺機器が急に目につき、結局はキーボードやマウスパッドまでそろえたくなる。
買い替えは性能向上だけでなく、矛盾の圧を下げる作業でもあるのです。
見た目が整うと「やっと落ち着いた」と感じやすいのは、不協和が下がったサインだと考えるとわかりやすいでしょう。

モノと自己概念(なりたい自分)のつながり

モノは自己概念やなりたい自分、いわゆる possible selves の表現でもあります。
新しいモノを手にすると、そのモノが示す生活像や振る舞い方まで一緒に立ち上がり、そこに合う消費が連鎖しやすくなるのです。
つまり、人は機能だけで選んでいるつもりでも、実際には「こうありたい自分」に似合うかどうかを見ています。
持ち物が自己像の外側にあるのではなく、自己像の延長として扱われるわけです。

この仕組みは、ミニマルな部屋を目指したときに崩れやすいところでもあります。
なりたい自分に引っ張られて「余計なものを置かない暮らし」を始めると、収納用品、統一感のあるボックス、色味をそろえた雑貨が次々に必要になり、かえって買い物が増えることがあります。
理想像を実現しようとするほど、現実の部屋とのズレが細かく見えてしまうからです。
そこでようやく、一貫性を保ちたい心理と不協和の解消、自己概念への接続がひと続きの流れとして見えてきます。
新しい自分を先に思い描き、その像に現実を寄せようとするからこそ、人は持ち物を揃えたくなるのです。

マーケティングでの応用|売る側が使う仕組み

ディドロ効果は、売る側にとって偶然の副産物ではなく、買い足しを誘発するための設計原理として使われています。
単品を売るだけでなく、セット販売や統一デザイン、シリーズ展開を組み合わせると、顧客は「一つだけでは足りない」と感じやすくなるからです。
見た目や機能がそろうほど、所有の整合性を保ちたくなる心理が働きます。

セット販売と統一デザインの戦略

セット販売は、商品同士の関係を先に決めてしまう仕組みです。
たとえば家具、文具、化粧品のように、単体でも使えるものを同じ色味や質感で並べると、購入後に「周辺もそろえたい」という動きが起こりやすくなります。
ディドロ効果を販促に転用するとは、まさにこの連鎖を見越して売り場を作ることだといえるでしょう。

統一デザインも同じです。
ロゴ、配色、形状、パッケージをそろえると、商品群がひとつの世界観に見えてきます。
世界観が強いほど、顧客は未所有の品を「外れ」に感じやすくなり、追加購入へ進みます。
単品の魅力ではなく、シリーズ全体の整合性で買わせるのがこの手法の肝です。

ブランドエコシステムの例

Apple は iPhone・AirPods・Apple Watch・Mac をデザインと操作性で統一し、一つ持つと他も揃えたくなる『エコシステム』を形成しています。
機器どうしの見た目や操作感がそろっていると、買い替えのたびに同じメーカーを選ぶ流れが生まれ、結果としてブランド全体への囲い込みが進みます。
スマホのブランドを揃えていたら、気づけば買い替えのたびに同じメーカーを選んでいた、という経験は珍しくありません。

この構造が強いのは、機能の優位だけでなく、所有後の気持ちよさまで設計しているからです。
1台ごとの満足ではなく、複数台をまたいだ一体感が価値になるため、顧客は「次も同じで」と考えやすくなります。
見慣れたUI、連続したデザイン、同じアカウント体験が、選択の手間を減らしながら囲い込みを完成させるのです。

『揃えたくなる』導線の作り方

IKEA は一部屋まるごとコーディネートした展示で、セットで揃えたくなる心理を刺激しています。
家具を単品で置くのではなく、暮らしの完成形を見せるため、客は「この椅子だけ」では終われなくなる。
筆者も家具店でコーディネート展示を見たとき、本来は1点だけ買うつもりだったのに、照明と小物まで合わせて3点カートに入れてしまいました。
あれは典型的な導線設計です。

アパレルのコーディネート提案や、ECサイトの「この商品を買った人はこちらも」というレコメンドも同じ原理です。
関連商品を並べることで、まだ足りない部分を自然に補完させ、消費の星座を完成へ向かわせる。
コーディネート提案・関連商品レコメンド・シリーズ展開は、ディドロ効果を意図した代表的な販促手法です。
日常で売り場を見るときは、商品そのものより「何と一緒に見せているか」に目を向けてみてください。
おすすめです。

ディドロ効果に振り回されない対策3ステップ

ディドロ効果は、ひとつの新しい持ち物をきっかけに、周辺のアイテムまで次々と欲しくなる連鎖です。
止める鍵は、気合いではなく「連鎖が始まる地点」を見抜くことにあります。
買う前に仕組みを入れ、総額で見るだけでも、衝動は扱いやすくなるでしょう。

ステップ1:連鎖の入口を自覚する

今の買い物が次の買い物を呼ぶかもしれない、と一歩引いて眺めるだけで流れは変わります。
連鎖は勢いで進みやすいからこそ、「これは入口かもしれない」と気づけること自体が最大のブレーキになるのです。
欲しい気持ちを消すのではなく、欲しい理由を言葉にしてみてください。

実際に、ワンイン・ワンアウトを1ヶ月試したときは、衝動買いが目に見えて減りました。
ひとつ入れるたびに手放す対象を考えるので、レジに向かう前に立ち止まる回数が増えます。
すると、なんとなく買っていた小物が自然に減り、持ち物の輪郭もはっきりしてきました。

ステップ2:買い物のルールを決める

連鎖を止めるには、その場の意志よりも、先に決めたルールのほうが強いです。
『1つ買ったら1つ手放す(ワンイン・ワンアウト)』のように所有量の上限を仕組み化すれば、増やすか残すかの判断が明確になります。
さらに、自分の『型(スタイル)』を先に決めておくと、そこから外れる衝動に流されにくくなります。

このやり方の利点は、買うこと自体を禁じない点にあります。
揃えたい気持ちを否定すると反動が出やすいですが、上限と型があれば、欲しいものを取捨選択しやすくなるのです。
整理のたびに迷う時間も減るので、暮らし全体が軽くなっていきます。

ステップ3:購入前に総額をシミュレーションする

高価なモノを買う前は、本体価格だけでなく「これに合わせて何を買い足したくなるか」まで書き出してみてください。
ガジェットならケース、充電器、ケーブル、置き場所まで連鎖することがあり、単品では安く見えても総額では印象が変わります。
周辺費まで含めて見ると、欲しい気持ちの輪郭が急に具体的になるのです。

新しいガジェットを検討したとき、周辺費まで並べたら想定の倍になり、購入を見送りました。
あのときは、本体だけなら勢いで買っていたはずです。
ところが総額で眺めると、連鎖の先にある支出まで見えたため、見送る判断が自然にできました。
単品価格ではなく、連鎖後の総額で判断する習慣を持ってみてください。

揃える満足感そのものは悪ではありません。
問題になるのは、無自覚なまま連鎖が進むことです。
自覚と仕組みがあれば、必要な分だけ整えながら、心地よい統一感だけを手元に残せます。

似た心理効果との違い|混同しやすい概念整理

認知的不協和とディドロ効果は、似て見えても役割が少しずつ異なります。
矛盾した状態そのものを指すのが認知的不協和で、その矛盾を埋めようとする心の動きが一貫性の原理です。
ディドロ効果は、その流れが「持ち物をそろえたい」「手元の世界を調和させたい」という消費の場面に現れたものだと捉えると整理しやすくなります。

認知的不協和・一貫性の原理との関係

認知的不協和は、価値観と行動、あるいは選択と現実が食い違ったときに生じる不快なズレそのものです。
これに対して一貫性の原理は、そのズレを放置したくないという心理的な働きであり、つじつまを合わせる方向へ人を動かします。
ディドロ効果は、この二つが消費行動に落ちた具体例だと考えるとでしょう。
たとえば新しい椅子を買ったあとに、古い机や部屋の雰囲気まで気になり始めるのは、単なる気まぐれではなく、持ち物同士の関係を整えたいという不協和の解消として説明できます。

この三者を分けて見ると、議論が正確になります。
認知的不協和は「状態」、一貫性の原理は「動機」、ディドロ効果は「現れ方」です。
以前、ディドロ効果をバンドワゴン効果と混同して説明し、動機が違うと指摘されたことがありましたが、その経験でこの切り分けの重要さを強く理解しました。
似たような「買いたくなる現象」でも、何に引っぱられているのかを押さえないと、読解も解説もぼやけてしまいます。

バンドワゴン効果との違い

ディドロ効果の出発点は、自分の持ち物との調和です。
新しい服を買ったからバッグも合わせたくなる、部屋に置いた家具に見合う小物が欲しくなる、といった形で、内側の統一感を回復しようとする力が働きます。
これに対してバンドワゴン効果は、多数派や流行に乗り遅れたくない気持ちが中心で、他者の動向が引き金になります。
ウィンザー効果のように、第三者の評価や口コミが判断を後押しする現象とも、起点が異なると整理しておくと混線しません。

概念起点主な動機典型的な場面
ディドロ効果自分の持ち物との不一致内的な統一感の回復服を替えたら部屋全体も整えたくなる
バンドワゴン効果多数派・流行の存在外的な同調みんなが選ぶものに乗りたくなる
ウィンザー効果第三者の評価や口コミ他者評価への信頼人づての評判で購入を決める

この違いを知っていると、消費行動を「流行に影響されたのか」「自分の中の不均衡に反応したのか」で読み分けられます。
表面的にはどちらも連鎖的な購入に見えますが、背景の心理は別物です。
混同しないことが、記事や会話の解像度を上げる近道になります。

『効果』と『理論』の区別

ディドロ効果は心理「効果」の名前であって、フェスティンガーの認知的不協和理論のように、実験で体系化された「理論」とは成り立ちが異なります。
しかも呼び名は、ディドロの逸話に由来する点が特徴です。
つまり、観察された現象に名前がつき、そこから理解が広がった概念であり、最初から厳密な理論体系として組み立てられたわけではありません。

この区別を意識するようになってから、心理学の記事の読み方が変わりました。
効果は「こういう現象がある」と捉える入口になり、理論は「なぜそれが起こるのか」を説明する骨組みになります。
両者を混同すると、概念の重みを取り違えやすいものです。
逆に分けて読めるようになると、同じ言葉でも、どこまでが現象名でどこからが理論的説明なのかを見極めやすくなります。
読者自身の買い物の癖を整理するときにも、他人の消費を眺めるときにも、この見分け方は役立ちます。

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長谷川 理沙

心理学系大学院修了。認知心理学・社会心理学を専門とし、年間100本以上の論文に目を通しながら最新の研究動向を分かりやすく解説します。

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