マウンティングする人の心理|劣等感と承認欲求の正体
マウンティングする人の心理|劣等感と承認欲求の正体
マウンティングは、もともとサルなど霊長類が馬乗りになって優位を示す動物行動学の用語で、2014年ごろから人間関係を表す言葉として一気に広まりました。書籍女は笑顔で殴り合う マウンティング女子の実態やテレビドラマをきっかけに「マウンティング女子」という語も生まれ、
マウンティングは、もともとサルなど霊長類が馬乗りになって優位を示す動物行動学の用語で、2014年ごろから人間関係を表す言葉として一気に広まりました。
書籍『女は笑顔で殴り合う マウンティング女子の実態』やテレビドラマをきっかけに「マウンティング女子」という語も生まれ、今では男女を問わず会話の中で相手より優位だと示そうとする言動を指します。
その背景には、アドラーのいう優越コンプレックス、自己肯定感の弱さに由来する承認欲求、そして劣等感から身を守る防衛機制があり、どれも「性格が悪い」と片づけられるものではありません。
フェスティンガーが1954年に示した社会的比較理論を手がかりにすると、マウンティングは誰の心にもある比較の働きが極端に表れたものだと見えてきます。
同僚やママ友の何気ない一言にモヤッとした経験は、多くの人にあるはずです。
職場・ママ友・SNSの具体例をたどりながら、土俵に乗らない淡白な受け流し方や先に承認を渡すコツを見ていくと、相手に振り回されにくくなります。
さらに、自分も無意識にマウントを取っていないかを振り返り、比べる相手を他人から過去の自分へ移していくことが、健全な劣等感との付き合い方につながります。
マウンティングとは何か:言葉の由来と現代的な意味
マウンティングとは、会話や態度の中で相手より自分が優位だと示そうとする言動を指す言葉です。
いまでは日常語として定着していますが、もとはサルなど霊長類の優位行動を表す動物行動学の専門用語でした。
人間関係の語として広まったのは2014年ごろで、その背景には『女は笑顔で殴り合う マウンティング女子の実態』の発売や同時期のテレビドラマの影響があります。
もともとは動物の優位行動を指す言葉だった
『マウンティング』は、もともとサルなど霊長類が相手に馬乗りになって優位を示す動物行動学の用語でした。
雄が雌に乗る交尾行動にも同じ語源があり、身体的に上に立つ動きが、そのまま優位性の表現として捉えられてきたわけです。
人間の対人関係でこの語が使われるようになったのは、比喩としてのわかりやすさがあったからでしょう。
上下関係を、会話や振る舞いの感覚にそのまま置き換えられるからです。
2014年に人間関係の言葉として一気に広まった
人間関係の語として広まったきっかけは2014年です。
漫画家とエッセイストによる書籍『女は笑顔で殴り合う マウンティング女子の実態』が2014年2月に発売され、同年春以降に検索数が増えました。
さらに同時期のテレビドラマでも使われ、『マウンティング女子』という語が定着していきます。
日常の違和感をうまく言い当てる言葉が与えられると、以前からあった現象が急に見える化される。
『マウント取られた』という言い回しがこの10年ほどで当たり前になった感覚には、そんな言葉の浸透の速さが反映されています。
『マウントを取る』の現代的な定義
現代の定義は、会話の中で相手より自分が優位だと示そうとする言動や態度です。
しかも、当初は女性同士の行為として注目されたものの、現在は男女どちらにも使われる言葉になりました。
性別の問題として切り分けるより、比較の場で優位を確かめたい心理がどの場面でも起こりうる、と考えたほうが実態に近いはずです。
もとが動物の優位行動だと知ると、人間のマウンティングも本能に近い反応の延長として少し冷静に眺められます。
誰かを悪役に固定するのではなく、比較と劣等感が強く出た現象として捉えると、この先の話も理解しやすくなるでしょう。
マウンティングする人の3つの心理メカニズム
マウンティングは、会話の中で相手より優位に立とうとする言動であり、単なる「性格の悪さ」だけでは説明しきれません。
背景には、劣等感、承認欲求、自己防衛といった複数の心理が重なっていると考えられています。
仕組みとして理解すると、相手の振る舞いを真正面から受け止めすぎずに済み、こちらの消耗も減りやすくなります。
劣等感の裏返し:アドラーの『優越コンプレックス』
アドラーは、劣等感そのものは誰もが持つ健全な感情で、努力や成長の刺激になると述べました。
ただ、それを実力以上に見せて覆い隠そうとすると、優越コンプレックスという形になる。
自慢話がやけに多い人や、他人の成功を小さく見せたがる人は、この構造の中で理解できることがあります。
ここで見えてくるのは、「強く見せる人ほど、内側に不安を抱えているかもしれない」という逆説です。
実績や持ち物をことさらに強調されると最初はイラッとしますが、「今は不安を抱えているのかもしれない」と仕組みを思い出すだけで、受け取り方が少し変わります。
相手を倒すべき敵として見るより、劣等感を隠そうとしている状態として眺めたほうが、感情を巻き込まれにくくなるのです。
承認欲求と自己肯定感の低さ
自己肯定感とは、自分で自分を認める力のことです。
これが弱いと、評価の基準を自分の内側に置けず、他者の反応に頼りやすくなります。
その結果、「誰かに認めてほしい」という承認欲求が強まり、会話の中でも相手の上に立つことで価値を確かめようとしやすくなる。
たとえば、話をしていて相手が自分の実績ばかり並べたり、持ち物や人脈を繰り返し語ったりする場面があります。
そうしたとき、本人は優位性を示しているつもりでも、実際には「今の自分で十分だと感じられない」不安の裏返しである場合がある。
さらに言えば、自信がないテーマほど、つい話を盛ってしまった経験は多くの人にあるはずです。
マウンティングを他人事として切り離しすぎず、自分の中にも似た揺れがないか振り返ると、理解はぐっと立体的になります。
自分を守るための『防衛機制』という側面
劣等感の痛みをそのまま感じるのはつらいため、人はそれを避けるための心の働きを使うことがあります。
心理学ではこうした働きを防衛機制と呼び、あえて自慢したり他人を下に見たりして、自分の傷つきやすさを守ろうとする反応として捉えます。
マウンティングは攻撃に見えて、実は本人の自己防衛である場合が多いと考えられているのです。
この見方は、相手を許すためというより、こちらが無駄に傷つかないために役立ちます。
仕組みが分かれば、相手の言動を個人攻撃として真正面から受け取り続けずに済みますし、感情的な消耗も減らしやすくなる。
もっとも、ここで紹介しているのはあくまで一般的に語られる心理傾向であり、特定の個人を診断するものではありません。
マウンティングする人すべてが同じ心理とは限らず、場面ごとに違う背景があると考えるほうが自然です。
人はなぜ他人と比べてしまうのか:社会的比較理論
社会的比較理論は、レオン・フェスティンガーが1954年に提唱した。
自分の能力や意見を正確に知りたいのに、手元に客観的な物差しがないと、人は自然に他人を基準にして確かめようとする。
マウンティングを考えるときも、まずこの「比べること自体は異常ではない」という前提を置くと見え方が変わります。
社会的比較理論とは
社会的比較理論とは、判断の基準があいまいなときに、他者との違いを手がかりに自分を把握しようとする心の働きです。
フェスティンガーが1954年に示したのは、人は単に優劣を競いたいから比べるのではなく、「自分はどの位置にいるのか」を知りたいから比べる、という見方でした。
SNSを見て「みんな自分より充実している」と落ち込む経験も、この枠組みで捉えると、感情に名前がついて少し距離を取りやすくなります。
ここで重要なのは、比較をやめるべき悪習慣として切り捨てないことです。
比較は、自己評価を支えるためのかなり基本的な仕組みであり、問題になるのは比べ方や比べる相手、そしてその結果をどう扱うかです。
マウンティングも、比較そのものが暴走した形として理解すると整理しやすくなるでしょう。
上方比較と下方比較の違い
比較には、上方比較と下方比較の2方向があります。
上方比較は自分より優れた人と比べることで、向上心や努力の動機を生みますが、差が大きすぎると劣等感や嫉妬、自信喪失につながりやすい。
下方比較は自分より劣ると見なす相手と比べて「自分はまだマシだ」と感じ、安心感や優越感で心を落ち着かせる働きがあります。
ここでマウンティングは、下方比較を相手を巻き込んで外に出した行為として見えてきます。
心の中だけで完結する比較では足りず、言葉や態度で相手より上だと示すことで、自分の不安を埋めようとするわけです。
気分が落ちているときほど、つい誰かを下に置いて安心したくなるものです。
「あの人よりはマシだ」と思った瞬間に、少しだけ胸が軽くなる感覚は珍しくありません。
自分にも下方比較が起きていると気づくと戸惑いますが、その戸惑いこそが、比較の力を自覚する入口になります。
| 比較の方向 | 基準にする相手 | 起こりやすい感情 | 主な働き |
|---|---|---|---|
| 上方比較 | 自分より優れた人 | 向上心、焦り、劣等感、嫉妬 | 成長の刺激になるが、差が大きいと苦しさも生む |
| 下方比較 | 自分より劣ると見なす人 | 安心感、優越感、安堵 | 自尊心を守りやすいが、相手を見下す形に傾きやすい |
SNSが比較を増幅させる構造
SNS時代は、比較が起きやすい条件がそろっています。
他人の旅行、仕事の成功、仲のよさそうな日常が断片的に流れ続けるため、見る側は無意識に上方比較を重ねやすいのです。
そうすると「自分だけ遅れているのではないか」という感覚が刺激され、その反動で下方比較に寄ったり、マウンティングで自分の位置を確かめたくなったりする、という見方があります。
ただ、ここで因果を単純化しすぎないことも大切です。
SNSが直接マウンティングを生むというより、比べる材料が絶えず目に入る環境が、もともと誰にでもある比較の回路を強く作動させる、と考えるほうが自然でしょう。
自分がなぜざわつくのかを知っておくと、投稿を見る時間を少し短くしてみたり、反応する前に一呼吸置いてみたりする余地が生まれます。
マウンティングが起きやすい3つの場面と具体例
マウンティングは、比較しやすい場面ほど起きやすくなります。
職場なら年収や学歴、役職や残業時間、ママ友・ご近所なら子どもの習い事や成績、SNSなら充実した暮らしぶりが、そのまま優劣の材料になりやすいからです。
しかも、逃げにくい関係ほど言葉がじわっと刺さるため、あとから思い返しても居心地の悪さだけが残ります。
職場:年収・学歴・忙しさアピール
職場では、年収・学歴・役職・残業時間のように、わかりやすい比較軸が並びます。
『え、まだその案件やってるの?』『うちはもう導入済みだけど』のような言い方は、相手を遅れている側に置くことで優位を示す典型です。
評価や昇進が常に意識される環境では、仕事の成果そのものだけでなく、忙しさや属している部署まで誇示の材料になりやすいでしょう。
ランチや終業後の雑談でも、何気ない一言に上下の空気が混じることがあります。
ママ友・ご近所:子ども・家庭・持ち物
ママ友やご近所では、子どもの習い事・成績・進学先が話題の中心になりやすく、そこに家庭や持ち物の話が重なります。
『うちの子もう英検受けさせてて』のような言い回しは、親自身の努力というより、子育ての成果を通じて優位を示す形になりやすいのです。
しかも閉じた人間関係では、話題をそらしにくく、その場を切り上げるのも簡単ではありません。
送り迎えの短い会話であっても、ふっと比べられた感覚だけが残ることがあります。
ℹ️ Note
こうした場面は、相手が明確に攻撃しているとは限りません。本人は単に自分の近況を話しているだけで、受け手がマウントと感じるかどうかは関係性や文脈で変わります。だからこそ、最初からすべてを敵意として受け取らず、同時に自分の感じ方も丁寧に見る姿勢が役立ちます。
SNS:充実アピールと遠回しの見下し
SNSでは、旅行・食事・趣味・家族時間の切り取りによって、充実した生活そのものが誇示されやすくなります。
さらに『独身の人には分からないだろうけど』のように、立場の違いを前提に相手を一段下に置く前置きも目立ちます。
直接ぶつからないぶん表面は穏やかでも、読み手の側にはじわじわ残るモヤモヤが生まれやすいのが特徴です。
比較が可視化されやすい場だからこそ、見ているだけで疲れる人も少なくありません。
3つの場面に共通するのは、比較軸が明確で、しかも逃げにくい関係ほどマウンティングが起きやすいことです。
職場では仕事の成果、子育ての場では子どもの出来、SNSでは暮らしの充実度のように、その場で価値が高いとされるものがそのまま誇示の対象になります。
自分が良かれと思って話した内容でも、相手にはマウントに聞こえていたかもしれない。
この双方向の視点を持てると、見え方のズレが少し整理しやすくなります。
マウンティングする人への5つの対処法
マウンティングする人への対処は、相手の土俵に乗らず、比較の入口を減らし、承認を先に渡すことが柱になります。
相手は反応や張り合いを得るほど勢いづきやすいので、こちらが消耗しない形を選ぶほうが効果的です。
あわせて、自分の価値まで揺らされない見方を持っておくと、場の空気に巻き込まれにくくなります。
土俵に乗らない『淡白スルー』
マウンティングは、相手を競争の場に引き込み、反応をもらって初めて成立しやすいものです。
そこで『へぇ』『なるほど』『それはよかったですね』のような淡白な相づちで返すと、相手は張り合う手応えを得にくくなります。
言い返したい衝動をぐっとこらえて『へぇ、そうなんですね』とだけ返した日のように、拍子抜けするほど早く話題が変わることもあります。
張り合わないことが、一番効く場面は少なくありません。
感情を見せずに受け流すのは、無関心を装うためではなく、相手のエネルギー源を断つためです。
こちらが熱を上げないほど、相手の優位づけは空回りしやすくなります。
余計な説明を足さず、短く淡白に返す。
これだけで空気は変えられます。
距離をとって比較の入り口を減らす
業務連絡以外の接触を減らし、SNSでの相互閲覧も控えると、比較が起きる入口そのものが物理的に減ります。
下方比較は、相手の情報が目に入るほど起きやすいので、見ない・触れない・追わないという設計が、そのまま防御になるのです。
近くにいるほど気になってしまうなら、まず接触回数を減らしてみてください。
距離をとることは、関係を切ることとは違います。
必要なやり取りだけを残し、それ以外の雑音を削るだけでも十分に効果があります。
相手の投稿や近況を追う習慣があるなら、そこを止めるだけで、心の中の比較回路はかなり静かになります。
静かにすること自体が、立派な対処です。
先に承認を渡して競争心をそらす
相手の自慢に対して『さすがですね』『すごいですね』と先に承認を返すと、欲しかった評価をすでに受け取った形になります。
そのため、それ以上競い合う動機が下がりやすいのです。
承認を渡すのは負けではありません。
消耗を避けるための戦略的な一手です。
実際に、先回りして『さすがですね』と言ってみたら、相手の表情がふっと和らいで会話が穏やかになったことがあります。
ここで大切なのは、相手の自慢に飲み込まれず、評価のボールだけを先に返す感覚です。
承認を渡したからといって、自分の立場まで下がるわけではない。
そう切り分けられると、会話はずっと楽になります。
相手のマウントを『自分の価値が下がった証拠』と受け取らない視点も欠かせません。
相手の言動は相手の不安の表れであって、自分の実際の価値とは別問題です。
この切り分けができると、反応する前に一呼吸置けるようになります。
巻き込まれにくさは、ここから生まれます。
自分が無意識にマウントを取らないために
誰かを見下して安心したくなる気持ちは、意地悪な性格の人だけに起きるものではありません。
気分が落ちているときほど、つい別の誰かと比べて「自分はまだマシだ」と感じたくなることがあり、その延長で無意識にマウントの形を取ってしまうこともあります。
まずは、その反応が自分の中にもあると気づくところから始めましょう。
アドラーが劣等感を、病気ではなく努力や成長の刺激になりうる感情として捉えた見方も、ここにつながります。
劣等感をなくすことより、他人を下げる材料にせず、自分を前に進める力に変えられるかが分かれ目です。
比べる相手を他者から過去の自分へ移していくと、自己評価がずっと安定しやすくなります。
『つい比べてしまう』のは誰にでもある
誰かを羨ましく思ったあとで、別の人を見て少し安心する。
そんな心の動きには、思っている以上に覚えがあるものです。
下方比較で一時的な安心を得る心理は特別なものではなく、誰の中にもあります。
だからこそ、マウンティングを「自分とは無関係な誰かの問題」として切り離しすぎないことが、見直しの出発点になります。
気分が落ちているときほど、人は無意識に「自分はまだ大丈夫」と言える材料を探しがちです。
そのときの比較は、相手を理解するためではなく、自分の不安を下げるために働きます。
誰かを持ち上げて自分を見失うのでもなく、誰かを下げて安心するのでもなく、自分の反応を静かに眺めてみましょう。
劣等感は悪者ではない
劣等感を感じた瞬間に、「こんな気持ちはよくない」と押しつぶそうとすると、かえって反動が強くなることがあります。
アドラーが劣等感を健全な感情として位置づけたのは、それが人を止めるものではなく、工夫や努力を生む起点にもなるからです。
要は、感情そのものより、その使い方が問題なのです。
劣等感を優越コンプレックスに変えて他者を見下せば、少しだけ強くなった気分にはなれます。
ただ、その安心は長続きしません。
反対に、足りなさを自分を整える材料として扱えれば、他人との優劣に振り回されにくくなります。
自己肯定感も、誰かとの比較で作るより、自分の積み重ねで育てるほうが安定するでしょう。
比べる相手を『過去の自分』に変える
人と比べる軸をそのままにしていると、周囲の出来事がそのまま自己評価を揺らします。
だからこそ、比べる相手を他者から過去の自分へ移す視点が役に立ちます。
昨日より一歩進めたか、前より少し落ち着いて話せたか。
そうした基準なら、誰かを見下して優越を得る必要はなくなっていくはずです。
実際、他人より上を目指していた頃より、昨日の自分より少し前へ進むことを基準にしてからの方が、人と会うのが気楽になったと感じます。
相手の反応を「勝ち負け」で受け取らなくなるからです。
マウンティングは他人の中だけにあるのではなく、自分の中にも芽生える仕組みだと知っておくと、振り回されにくくなります。
これは診断でも断定でもなく、人間に広く見られる比較の働きとして受け止めておくとよいでしょう。
つらさが長く続くなら、専門機関に相談する選択肢もあります。
心理学科卒。企業の人事・組織開発部門で産業心理学を実務に応用してきた経験から、認知バイアスやコミュニケーション心理学など「日常で使える心理学」を伝えます。
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